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 藤井女流が語った「あじさいの花言葉」について書かれた観戦記《第33期竜王戦ランキング戦6組準決勝 星野良生四段VS西山朋佳女流三冠(読売新聞)》には、このような心に残る一節がある。

《帰り道、公園で見事な紫陽花を見つけて足を止めた。花の色が変わることから、「移り気」という花言葉を持つきらいがあるが、紫陽花は花季が長いので「辛抱強さ」を表す花でもあるという。さり気なく、美しく咲く花に姉弟子が重なって見えた。次はどんな色に染まって咲くのか、楽しみである。》

勝又 この観戦記が出た後に高野くん(秀行六段)が電話をくれて、「今度の藤井さんの観戦記すごいよ」って教えてくれました。読んだらすごくって。わあ、こういうの書くんだと思いました。

――勝又先生は、将棋の戦術面の話を手厚く書いておられますね。

勝又 そうですね。たとえばこの「挑戦者決定戦」の観戦記では、矢倉がどれくらい採用されたのかなどを書いています。

 この「挑戦者決定戦」とは、《第93期ヒューリック杯 棋聖戦 挑戦者決定戦 渡辺明名人―永瀬拓矢王座》の対局である。その冒頭の部分をご紹介しよう。

《渡辺は昨年の挑戦者決定戦では相掛かりを採用した。しかし、本局では矢倉を選んだ。矢倉は後手急戦の大流行によって苦戦しており、令和3年度も勝率が4割3分ほどしかない。藤井棋聖も永瀬も1年以上採用していない。しかし、渡辺にとって矢倉は特別な戦法だ。15歳で棋士になってから20年以上も愛用してきた。20歳で竜王を獲得したときも矢倉が原動力となっただけに、心強きパートナーなのだ。》

 たしかにこれだけを見ても、藤井女流初段と勝又七段の書く観戦記には、大きなちがいがあることがわかる。

理想の観戦記とは…

――観戦記者にも棋風があるんですね。

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勝又 あるね。

藤井 ありますね。すごくあります。

 

――今日のお二人は、観戦記者としての棋風は、わりと真逆ですね。

勝又 そう真逆。居飛車と振り飛車党くらいちがう。これだけの文章が書けるっていうのは、僕からしたら羨ましいですけどね。

――このように書き手の色がはっきりあると知れば、もっと観戦記を読みたくなりますね。ただ、そういった文章を書くのはなかなか難しい。

藤井 鈴木宏彦さん(『将棋世界』の編集者の後、将棋ライター)が、関西将棋会館に行く途中、将棋の本を片手に走り去る子どもが見えたといった景色描写をされていたんです。こういった文章いいなと思っても、私にはこういうの無理だなと思って、私にできるのはなんだろうと思ったら、歴史とかそういうのかなって……。普段、美術館によく行ったりするんで、これしかないなーって思いながら、今にいたる感じですね。