あなたは「神主」と聞いて、どんなイメージを持つだろうか。神事をつかさどる聖なる存在だから、お金とは無縁。日々人々の悩みを聞いて、祭儀、社務をこなすストイックな宗教家。そういったイメージを持っている人がほとんどだろう。しかし、神主も我々と同じ人間。ささいなことで悩んだり、「仕事を休みたい」と思うこともあるのだ。
ここでは、50歳のときにサラリーマンから神主に転職した新井俊邦氏の著書『神主はつらいよ とある小さな神社のあまから業務日誌』(自由国民社)から一部を抜粋。神主を悩ます“困った参拝客”を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
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メルカリに「幻のお守り」を出品しないで!
私は帰宅すると、友人の宮司・河村和也に言われたとおり、メルカリのウェブサイトにアクセスしてみました。「例のモノ」を探し出すのは至って簡単でした。
「例のモノ」とは?
その日、私は神社関係の会議に出席していました。会議の合間の休憩時間にコーヒーを飲んでいると、河村が、
「不心得者が多くて困ったものだね」
とたいして困った様子もなく話しかけてきました。
「何かあったの?」
「いやね、つい先日、暇つぶしでメルカリに出品されているモノを眺めていたのさ。そうしたら、驚くモノを発見したんだ。俺たちからしたら、まさか、まさかのモノだよ。わかる?」
「……大麻?」
「それはどっちの大麻よ? 違法薬物の大麻が出品されたらすぐに削除されるだろうね」
「もちろん、神様の御札のほうの『大麻(※1)』だよ。俺たち宮司が驚くモノっていうから」
「なるほど。まあ、半分正解ってところかな」
「半分正解って、何?」
「○○神社のお守りが出品されていたのさ」
「え~、信じられない。あの『幻のお守り』が……」
会議と懇親会が終わり、私が帰宅したのは午後10時を回っていました。本当はすぐに休みたかったところですが、「幻のお守り」のことが気になり、メルカリのウェブサイトを立ち上げたのでした。
「幻のお守り」こそ、簡単に見つけられた「例のモノ」の正体です。
ここ数年、埼玉県内にある某神社のお守りは、とてつもなく人気がありました。その人気ぶりや、周辺道路が大渋滞となり、近隣の住民に迷惑が及ぶほど。そのため、頒布が中止になったという経緯のあるお守りです。頒布中止となってすでに1年が経過しており、ファンの間では「幻のお守り」と呼ばれていました。
その「幻のお守り」がメルカリにいくつか出品されており、しかも2万円近い値段で取引されていたのです。