あなたは「神主」と聞いて、どんなイメージを持つだろうか。神事をつかさどる聖なる存在だから、お金とは無縁。日々人々の悩みを聞いて、祭儀、社務をこなすストイックな宗教家。そういったイメージを持っている人がほとんどだろう。しかし、神主も我々と同じ人間。ささいなことで悩んだり、「仕事を休みたい」と思うこともあるのだ。
ここでは、50歳のときにサラリーマンから神主に転職した新井俊邦氏の著書『神主はつらいよ とある小さな神社のあまから業務日誌』(自由国民社)から一部を抜粋。神主として奮闘する新井氏の“悩み”を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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賽銭泥棒を捕まえたので被害届を!
元旦初詣、歳旦祭、厄除祭など、行事が目白押しの1月を終え、忙しさがひと段落した2月の深夜、1本の電話が鳴り響きました。
14の神社の宮司である私は、神社の境内にある社務所で暮らしてはおらず、各神社から車で5~30分程度のところに住んでいます。その自宅の電話が鳴ったのです。
しばらく様子をみていましたが、鳴りやむ気配はゼロ。これは何かあったなと、受話器をとると、相手の声の主は川越警察署の警察官でした。「あなたが宮司をお務めになっている木野目稲荷神社で賽銭泥棒を捕まえました」と言うではありませんか。
いくら盗まれたのだろう、と気になりましたが、時間は深夜です。しかも、ブルブルと寒い。私が「眠気まなこで車を運転するのは危険なので、朝の早い時間に行きます」と答えると、被害届を早く出してほしいようで、「車でお迎えに参りますので、ご安心を。お着替えになってお待ちください」と言われました。
こうなったら行くしかありません。「犯罪者じゃないのに、パトカーに乗るのかぁ」と、緊張して待っていると、現れたのは普通の車。ご近所さんの目に配慮した気遣いでした。
ご近所さんがリアルタイムで泥棒を確保
ところで、寺社仏閣が賽銭泥棒の被害に遭うのは、それほど珍しいことではありません。私の神社でも、この事件の前に、数回被害に遭っています。賽銭箱は、ひっそりとした境内にポツンとあるものです。盗もうとする泥棒は、いるものなのです。
しかしながら、賽銭泥棒にやられても、それが警察沙汰になるとは限りません。被害届を出せば、調書を取ったり、何度も警察に行かないといけなかったりと、何かと手間がかかります。しかも、賽銭泥棒の現場に遭遇するのはマレで、事後にわかることがほとんどのため、犯人は捕まりにくい。被害額もそれほど高くもありません。そのため「まぁ、いいか……」とあきらめることも多いのです。私も、その1人でした。
今回は、近所の住民がリアルタイムで泥棒を確保し、110番したため、警察が介入することになったのです。