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紙コップ継ぎ足し事件

 紙コップ継ぎ足し事件が起きたのは、桜が満開になったうららかな春のことでした。

 紙コップにお酒を注いで、施主はじめご家族全員に手渡し、一斉に口をつけるまでは、コトは順調に進んでいました。

 その後、残ったお酒を地面に撒く場面で、目を疑うような光景に出くわしたのです。施主が、ご家族全員の紙コップを奪うように取り、残ったお酒を自分の紙コップに注いでいったのです。

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「そうか。施主さんがまとめて、地面に撒くのか。そんな必要ないんだけどなぁ」と、思ったときです。施主さんは、なんとグイっと飲み干してしまったのです!

 この行為にびっくりして、思わず驚きの表情を浮かべていると、施主さんは何ごともなかったかのように、空になった紙コップを住宅販売会社の営業マンに手渡したのでした。笑顔で「これでいい家が建つといいなぁ!」と話していました。

 ときどき、この施主さんのことを、思い出します。

「神酒拝戴の所作は、気持ちが高ぶるあまり間違えてしまったようだけど、神様に報告をきちんとして建てた家なので、きっと、今も幸せに暮らしてるのだろうね」と――。

子どもたちに乗じてジュースを手に取るお母さんたち

 こんなこともありました。夏祭のおみこしのお祓いで出会った“馬耳東風ちゃん”です。

 私が夏祭の宮司を務めるときは、小さな子どもには、ジュースの入った紙コップを渡すようにしています。子どもたちが御神酒を誤飲してしまうのを避けるためです。

 その日は町内会の夏祭で、おみこしの巡行安全祈願祭の祈祷があり、小中学生や幼稚園児がいたので、ジュースを用意してもらっていました。

 すると、なぜかお母さんの何人かが「私も」と、ジュースのコップを取ったのです。

 いやいや、飲み会の席で「今日は私、車だからお酒が飲めないの」じゃないんですから。

 会場の司会者は、大人は御神酒の紙コップを手に取り、余ったらそのまま返すか、地面に撒くようにと話していたのに……。お祭りの高揚感で、やはり馬耳東風になられる方が想像以上に多いのでした。

 お母さんたちには、ご自身の健康を祈るためにも、お酒の飲むふりだけでもしてほしかったなぁ、と思ったものです。

※1・・・正式には「神宮大麻」という。神宮大麻の「大麻」とは本来「おおぬさ」と読み、神々への捧げもの、お祓いの際に用いられる木綿や麻を指す。 このことから、厳重お祓いを経て授けられる御神札を「大麻」と呼ぶようになった。違法薬物と漢字表記も読みも同じで混同されるのを防ぐための別の呼び方として、「お伊勢様」「皇大神宮」「大神宮様」などがある。

 

※2・・・玉串を神前に謹んで供えること。お祭りの中で最も重要な行事。玉串を神前に供えてから「二礼二拍手一礼」までの一連の動作をいう。代表者の動作に合わせて、その場で「二礼二拍手一礼」を行う「列後参拝」もある。