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「勇斗の自殺から1週間後、武川氏が電話で『マスコミも海星だとは気付いていないことだし、このまま“突然死”ということにしないか』と提案してきたのです。その翌日には、『遺族が望むのなら“転校”したことにもできる』と打診されました」(大助さん)

勇斗くんが自殺した場所で手を合わせるさおりさんと大助さん

 学校は息子の死を隠蔽しようとしているのではないか――。偽装提案の約1週間後、自宅から加害者の実名入りでいじめ被害を訴える勇斗くんの手記が新たに見つかったこともあり、そんな恐怖心に駆られた両親は、第三者委を設置しての真相究明を学校側に要望。弁護士や臨床心理士ら5人からなる委員会が発足した後も、教職員らと約20回にわたり面会し、再発防止策を講じるよう求め続けた。

「自殺を生徒や保護者に公表して欲しいと頼むと、武川氏は『昔、歌手の岡田有希子さん(1986年に飛び降り自殺)の時は後追い自殺する人が増えた。勇斗くんもそんなことは望んでいないと思う』と言うのです。まるで脅されているようで、私たち遺族は精神的に圧迫されていきました」(さおり)

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「加害者の実名入りの手記を見せると、武川氏も当初は『これはいじめだ』と認めました。それなのに、息子のクラスでのいじめに関する話し合いや、加害者への指導は一切やってくれません。『第三者委に全て任せているから』の一点張りです。自殺から約1年たっても、担任や学年主任に加害者の名前すら知らせていませんでした」(大助)

「神様とはそんなに便利な存在なのでしょうか」

 不誠実な対応の中でも、教職員の良心を信じて働きかけを続ける2人だったが、学校側を見限る決定的な出来事が起きる。

「知人に海星高では1999年にも自殺した生徒がいると聞き、武川氏に事実か尋ねました。すると、『そういうことはいちいちメモして記録してないから』と答えたのです。時間がたてば息子も同じように扱われる……。そんな確かな予感を抱きました」(さおり)

問題の私立海星学園 ©杉山拓也/文藝春秋

 遺族の心情を踏みにじる学校側だったが、唯一、熱心に取り組んでいたことがあったという。それは勇斗くんへの「お祈り」だ。

「海星高はカトリック・マリア会が経営するミッションスクールです。だからなのか、坪光正躬理事長をはじめ、学校幹部たちは『追悼のために祈りました』や『ミサを捧げました』などと何度も強調してくるのです。そんなことは頼んでいないし、祈る暇があるなら現実に目を向けて欲しかったです。『勇斗は天国に行ったので一件落着』とでも考えているのでしょう。神様とはそんなに便利な存在なのでしょうか」(さおり)

「宗教系の学校らしく、海星高は校訓に『神愛・人間愛』を掲げています。彼らは言葉の意味を本当に理解しているのでしょうか。実際の行動はこの理念とは真逆です」(大助)