この申し出をきっぱりと断った遺族は、自ら雇った弁護士に協力してもらい、必要な書類を取りそろえて自力で申請。センターも2020年3月に「いじめ自殺」を事実上認定し、見舞金の給付を決定した。
「二度と同じ悲劇を繰り返さないために」
遺族と学校側の対立は極まり、膠着した。2人は記者会見を開くなどして世間に窮状を訴え、報道によって学校側は厳しい非難に晒された。それでも態度を改める気配はない。ついに民事訴訟という道に追い込まれた両親は、代わる代わるその目的を語った。
「これまで私たち遺族はただ、『二度と同じ悲劇を繰り返さないために、いじめ自殺と真摯に向き合って欲しい』と何度もお願いしてきただけです。どうしても受け入れてもらえないので、やむなく提訴という最終手段を取らざるを得ませんでした」(大助)
「海星高では2019年5月にも別の生徒が自殺しました。原因は公表されていませんが、学校の体質に一因があるのは明白です。いじめ自殺からの“逃げ切り”をこのまま許してしまえば、悪しき前例として残ってしまいます。どこかで誰かが亡くなった時、海星高のまねをする学校が現れかねません。認めたくなければ、認めなくて良いのだと」(さおり)
「もしそんな事態が起きたら、息子の死は本当に無駄になってしまいます。私は親として勇斗に顔向けできません。だから、『海星高がやってきたことは許されない』と司法の場でハッキリさせないといけないのです」(大助)
今回の取材で語った学校側の非常識な対応は、「氷山の一角」に過ぎないという。ノンフィクション『いじめの聖域~キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』では、提訴に至るまでの苦難の道のりの全貌を綴っているほか、学校側の言い分や遺族を見殺しにする行政の態度などについても詳報している。
「まさか自分の子供がいじめで自殺するなんて、想像もしていませんでした。同じように『まさか』と考えている人にこそ、この本を読んで欲しいです。誰もが当事者になる可能性があります。私たちの経験が、未来の子供たちの命を守ることに繋がれば幸いです」(両親)
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