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「AIやデジタルはヒトと置き換わるのか」『DEATH NOTE』などの背景を描く“コミック職人”が即答した答えは?

「AIやデジタルはヒトと置き換わるのか」『DEATH NOTE』などの背景を描く“コミック職人”が即答した答えは?

背景作画家・アッツーインタビュー #2

2022/11/19

 ここ数年のコロナ禍でマンガ制作の場でも一気にデジタル化が進んだという。いずれすべてデジタルでの作画に置き換わり職人芸はなくなってしまうのだろうか?(全3回の2回目/#1#3を読む)

背景作画マン、アッツーさん ©文藝春秋 撮影/橋本篤

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アナログはなくなり、すべてデジタルになるのか?

アッツー これはサイコミさんで連載中の『黒魔無双~堕ちた聖騎士と復讐の黒魔道士~』(石澤寛伎/COMIC ROOM)の溶岩流のシーンです。こういう自然の風景は下描きなしでフリーハンドで描いちゃいます。溶岩を頭の中でイメージしながら動かして、それを形にするだけなので。この原稿をスキャンしたものにいろいろエフェクトを足して、キャラクターが入るという感じです。

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©文藝春秋 撮影/橋本篤

――この絵をフリーハンドで描けるのはすごいです。背景に写真加工や3Dソフトを取り入れた作品も増えていますが、アッツーさんはアナログにこだわりたいというお考えでしょうか。

アッツー そんなことは全然なくて、デジタルで楽になるならどんどん使った方がいいと思ってます(笑)。というのも、背景のこだわりって僕のこだわりではなく、先生のこだわりなんです。

 先生がこういうふうにやってくださいっていうものを、全力でサポートするのが僕らの仕事であって、先生はアナログがいい、デジタルがいいというこだわりが強いので、それに合わせているだけなんです。現状としてデジタル作画が増えすぎた結果、アナログで描ける人がいなくて僕のところになぜか仕事が集まってますが、僕としてはアナログにこだわっているわけではなく、アナログしかほぼ描いたことがないだけです(笑)。

 アナログにはデジタルではできないことがまだまだあるし、今後もアナログっぽさをデジタルで簡単に出すのは難しいだろうなとは思うんです。みんながスマホの画面サイズで見ること前提で絵を描くならデジタルで十分なんですけど、紙に印刷すると違いがはっきり出るんです。最近はベテランの先生の原画展を見てアナログ作画に憧れる10代も多いようで、それで僕のところに依頼が来ることも増えてきています。

 

 

――近年のアナログレコード人気と似ていますね。

アッツー どの世界にも一定数マニアックな人はいるのでアナログ作画が消滅することはないと思います。アナログで描いてもデータで取り込んでデジタル上に馴染ませてしまえば一緒ですから。だったら僕も今からデジタルを覚える必要はないかなという結論に達しました。

アナログの背景とデジタルの背景の違いは何ですか?

――アナログの背景とデジタルの背景で、素人にもパッと見て分かる違いって何ですか?

アッツー 「抜き」が綺麗に出せないことが一番大きいですね。「抜き」というのは線の引き終わりで筆圧を弱めてスッとペンを原稿から離す技法です。アナログの原稿を見ていただくと分かるんですけど、今のデジタルの技術だと印刷した時にどう頑張っても微妙にかすれた感じが出せないんですね。

 特に鉛筆で描いた線とか。デジタルだとピクセルのドットがまだでかすぎるんです。今後モニターが8Kとかその倍になれば行ける可能性があるんですけど、今の4K程度ではまだまだ出せないです。8KになったとしてもPCも含めて機材が高すぎて買えないでしょうし。