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「AIやデジタルはヒトと置き換わるのか」『DEATH NOTE』などの背景を描く“コミック職人”が即答した答えは?

「AIやデジタルはヒトと置き換わるのか」『DEATH NOTE』などの背景を描く“コミック職人”が即答した答えは?

背景作画家・アッツーインタビュー #2

2022/11/19
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――だったら人間の手で描けばいい、になりますね。紙でもタブレットでも絵を描く技術は一緒ですし。

アッツー まったく一緒です。なので何も困ることはないし、僕もデジタルでやらなきゃいけないことはひと通りは分かるので。デジタルしか触ってきていない子に「デジタルでこのアナログの感じを描いて」っていう指示を出すことも多いです。例えばデジタルだとベタのカケアミ(線を掛け合わせて濃淡を付ける手法)はツールでそれっぽくなるんですけど、どうしても細部は自分の手でカケアミをしなきゃいけない箇所も出てきます。そうするとできないって言うんです。

 自分で描いたことがないから。それでカケアミの仕方をゼロから教えてあげて。デジタルでできる基本的なことは全部アナログでできるので、知った上でデジタルを使うとさらに上に行けるよって基礎から教え直している感じですね。今の子たちは基礎を飛び越しちゃってますから(笑)。

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コロナ禍がマンガ界にもたらした大きな変革

――スマートフォンの普及やペイントソフトなどの機材が廉価になったこともあり、2010年代は漫画界のデジタル化が一気に進んだ10年間でしたね。

アッツー 本当はもっと緩やかに進んでいたんです。僕もしばらくはデジタル7割、アナログ3割で共存していくかなと思っていたんですけど、コロナで一気にデジタルに切り替わりました。スタッフさんたちを仕事場に集められないから、それぞれ自宅からデータでやりとりするしかない。コロナになって最初の1年間で実はいろんな連載陣が1~2週休載しているんですけれども、その間にデジタル導入の準備をしていたんです。今は98~99%がデジタルで、フルアナログの先生は100人に1人か2人ですね。僕のところに来る仕事もほとんどがデジタルです。

 ごくたまにフルアナログで描いてほしいという依頼も来ますが、仕上げで結局デジタルを使わざるを得なかったり。ここまで早く広がるとは思ってなかったです。

©文藝春秋 撮影/橋本篤

――それほどコロナの影響は大きかった。

アッツー ただ、通う必要がなくなったことは僕がスタジオを作るきっかけにもなりました。当時手伝っていた作品のスタッフたちを僕がチーフとしてまとめていたんですけれども、コロナ禍の最中にその作品が終わってしまって。

 そうするとスタッフの子はみんな散り散りになってしまうんですけど、正直僕が手助けしないとまだまだ個人でできる実力レベルではなかったんです。だったら僕が彼らの面倒を見ようと。僕が仕事を受けて、この子たちに指示を出して調整しながら完成させれば、もっといっぱい作品を作れるんじゃないかと思って今年の頭に「スタジオアッツー」を立ち上げることにしたんです。

 最初は6、7人からスタートして、今50人ほど抱えています。作品も月に2、3作品から10作品になりました。下は専門学校生から上は50歳以上。漫画家を目指していて一度は諦めたけど、子育てが落ち着いてきたから絵の仕事をまた始めたいという主婦の方もかなり増えてきています。