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「『童夢』なんて凄すぎて、どうしても背景に目がいっちゃう」人気背景作画師が解き明かす名作コミックが10倍楽しくなる“背景の読み方”

背景作画家・アッツーインタビュー #3

2022/11/19

 自身が描く背景には数々の名作から学んだことが多いと言う。人気コミックの背景の解説、さらには自身が受けた影響を尋ねた。(全3回のうち3回目/#1#2を読む)

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背景を「きれいに描けばいいわけじゃない」ポイントは“生活感”

――アッツーさんの「大事なのは違和感のなさ。読者に読み飛ばされる背景こそ素晴らしい」という言葉はとても奥深いです。他にも背景画において心がけていることがあれば教えてください。

©文藝春秋 撮影/橋本篤

アッツー スタッフに「きれいに描けばいいわけじゃない」という話はよくします。例えば机の上にノートを置いてある絵を描いてって言うと、新人の子はノートをパースに合わせて綺麗に置いて描きがちなんです。

 それをいかに自然に見せるか。生活感をどこまで入れられるかを僕は気にしてるので、それがないと途端に嘘っぽくなるんです。先生もそこまで細かい指示は出さないんですけど、出さないからこそこっちが補完をしてあげなければいけない。街中を歩いているシーンだったら街路樹も季節によって描き方が変わるので「これは夏ですか? 冬ですか?」って先生に確認して、植え込みの描き方を変えたり。

 ファンタジーだったら、そこが乾いてるところか水分のあるところかで雲の描き方が変わるので。そういう読者に無意識に伝わる空気感づくりは言われなくてもやりますね。あと、大切なのがコスト確認しながら描くことです。

――コスト確認とは?

アッツー 最近多いんですけど、「このページはこの金額でお願いします、それ以上は出せないです」と言われた時は描き込み過ぎたら損するので、決して手を抜くわけではなく、その金額に見合う時間内できれいに描くようにと教えています。

――アマチュアなら頑張って3日ぐらいかけて描き込んでしまうでしょうね。

アッツー なんなら僕もやってました(笑)。楽しいし、描いたものが自分の評価になってしまうから、ついつい描き込みがちになるんです。だけどこれは仕事なので。かかる時間をきちんと計算した上で、いい絵を描く。

 基準としては周りが“うわっ、上手いな”と思うレベル。それ以上の描き込みはただの自己満足です。それをわかっててやってしまうのが職人の悪い癖ですけど、その癖をなくしてなるべくコストに見合うものを描こうと。なので新人の子に「そこやり過ぎだから、ちょっと抑えて」って止める役割を最近すごく意識してやっていますね。将来作家になった時、それ以上やりすぎると体壊すからって。

 言わないと本当にずっと描き続けるんです。実際いい絵は上がるんだけど、頑張り過ぎだって。なのでちょっとずつ縛りを決めます。「これで6時間はかけ過ぎだから5時間で描いて」「もっと白くていいよ」。繰り返しているうちに、その時間でできるクオリティでいいものが上がってくる。そういう管理の仕方をしています。