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 母親は、優子さんが小学校に就学するのに必要な手続きを怠っていた。この件で連絡を受けた児童相談所から、前と同じ女性職員が再び訪問してきた。母親が嫌そうに応じ、それから彼女が呼ばれ、二言、三言、会話した。

 小学校は楽しかった。毎日おいしい給食を食べられた。

 三度、児童相談所の職員が訪問してきたある日のこと。母親と職員が玄関で短い会話をした。その後、玄関が閉まり、母親がものすごい剣幕で彼女のほうへ歩み寄ってきて、いきなり蹴り、近くに置いてあったテレビのリモコンで彼女のことを打った。

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「お前が学校で余計なことを言うから、私が虐待していると思われているだろ!」

 彼女には心あたりがあるという。

「多分、私が学校の先生に、家でご飯を食べられないことがあると言ったから、それが児童相談所に伝わって、それで家にきて、ちゃんと食べさせるように言ったんだと思います。私は、ここで食べておかなきゃいけないと思って給食をたくさん食べていたので。家のことは外で話してはいけないんだと思ったことを、覚えています」

 外部から不用意に刺激すると(介入すると)悪化する虐待がある。私の頭には、いくつもの児童虐待死のニュースが浮かんだ。

高校を卒業し家を出る日、母親は「家政婦がいなくなった」と言った

 児童相談所が介入してくれたおかげで、弟は幼稚園に入ることができた。しかし、お迎えは彼女の役割になった。小学校からの下校途中で弟を迎えに行き、そのまま買い物をする。それが一家の晩御飯だった。母親は、まったく料理をしなかった。

 それから彼女は、母親に彼氏ができたこと、その男の人がとても怖かったこと、いつの間にかその男の人は家に入り浸るようになって、やがて住みはじめたことなどを話した。

 間もなく、母親と男のあいだには子どもが生まれた。女の子だった。優子さんは新しくできた妹をかわいがったが、すぐに別々に暮らすことになった。妹は、児童相談所が引きとっていった。

 児童相談所の職員は、彼女が小学校、中学校と進むまで、定期的に家に訪問してきた。「がんばっていくのよ」と彼女は職員から言われた。しかし、なにをどうがんばればいいのかわからなかった。