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「わーすごい!」と“感動しながら聴く”効用

――近年、「褒めて伸ばせ」とばかり言われている印象もあるのですが、「違うものは違うぞ!」って叩き込まれたほうが、記憶しやすいというのは意外でした。

伊藤 無論、「褒める教育」と脳で起こっていることを、どこまでパラレルで語れるのかはわかりませんが、基本的な知識の暗記などは、罰系のアプローチのほうが効率が良いのかもしれません。

 報酬系って、「人から褒められる」ことに限定されません。牛場教授は小さい頃、感動すると記憶に焼き付くから、学校の授業でよく「わーすごい!」って感激しながら聴いていたそうです。つまり、自分で感動する、「あ、こういうことか」って思えることが、深く人の記憶に残るんですね。

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 私が授業で心がけていることでもあるのですが、例えばひとつの作品の解釈を教師が「こういうことだよ」といくら興奮気味に語っても、単に知識として与えることになってしまう。でも学生に色々議論させれば、「自分で見つける」ことができた時、報酬系がドバッと働く(笑)。自分の気づきに勝るものはないんです。

 

――「自分で気づいて」感動することが大切なんですね。

伊藤 もっと言うと、失敗もしないと、「こういうことか!」と言えないので、球数の多い場所づくりが大切です。チャンスは2回だけとか言われたら、いろいろ試行錯誤して「あっ、これだ」という気づきは訪れない。ある意味、失敗が許される空間が、一番報酬的な学びなんです。

「できる」は、みんなが絶対に経験していること。意識を越えて何かができてしまうのはいいことですが、そんな「体はゆく」ことの中には、コントロールできていない、ちょっとした怖さもある。本書を通して、そのゾワッとする面白さを味わってほしいですね。

伊藤亜紗(いとう・あさ)
1979年生まれ。美学者。東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター長。同リベラルアーツ研究教育院教授。専門は美学、現代アート。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。主な著作に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)、『どもる体』(医学書院)、『手の倫理』(講談社選書メチエ)など。2020年、池田晶子記念「わたくし、つまりNobody賞」、『記憶する体』(春秋社)を中心とする業績でサントリー学芸賞を受賞。