長らく男社会の護衛艦隊にあって、大谷のイージス艦「みょうこう」の艦長就任という画期的な一事は、防大女子のみならず、自衛隊にとっての「新たな航海」なのである。
式典が開かれた後部甲板には、対空ミサイルの垂直発射システムが数多く埋め込まれている。戦いとなれば甲板上の蓋が弾けるように開き、誘導弾が撃ち放たれる。艦の真上に飛び出した弾体は、艦上に激しい炎と煙を残し、高度を上げながら向きを変え、目標めがけて急加速してゆく。ターゲットは大気圏外から超音速で落下してくる弾道ミサイルか、あるいは対艦ミサイルを抱えた攻撃機なのか──。
海自最強の大型バトルシップ「みょうこう」
「みょうこう」は、対空戦闘能力に優れた海自最強の大型バトルシップだ。排水量7250トン、全長161メートルの威容を誇り、高性能のレーダーとコンピューターを組み合わせた「イージス・システム」により、空から襲来する高速目標を同時に百数十個捕捉し、そのなかから脅威度の高い順に十数個を選択し、対空ミサイルなどで次々に撃破する。
このイージス・システムは対空攻撃力に優れるのと同時に、日米が共同開発した高高度迎撃ミサイルと、情報処理システムをバージョンアップさせることによって、弾道ミサイル防衛(BMD)の決め手とされている。
海自に合計8隻あるイージス艦のなかでも、ことさら「みょうこう」の“戦歴”は華々しい。
就役2年後の1998年8月には、北朝鮮が発射した「テポドン一号」を初めて探知捕捉し、その航跡を詳細に解析してみせた。
翌99年には石川県能登沖に現れた北朝鮮の工作船とおぼしき「不審船」を、自衛隊初の「海上警備行動命令」に基づき追尾し、警告射撃を加えて停船を促した。結局捕らえることはできなかったが、当時、不審船への臨検に備えた乗組員たちは、全員決死の覚悟だったという。
これら海自初の“実戦”により、「みょうこう」という艦名は、自衛隊のみならず日本の外交安全保障史を語るうえで特筆すべき「アイコン」となった。