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メイクは武具甲冑

 整った容姿に化粧を施した大谷は、殺風景な軍艦の中で鮮やかであり、また艶やかでもある。けれどそれは単なるマナーではない。男たちに媚びるためなどではもちろんない。

 彼女にとってのメイクは武具甲冑――。

©文藝春秋

「どんなに忙しくても、私は化粧だけはちゃんとしていくんですよ。『今日の艦長は化粧をしていなかった、なにか違う』となると、部下から冷静じゃないと思われるかもしれない。艦長は常に一定を保っていないと乗員を不安にさせてしまうので、いつものスタイルを変えてはいけないと思うんです。気分にむらがあっちゃいけないし、機嫌の悪い日があってもいけない。訓練が立て続いたり、海峡を通るときは艦橋で絶えず見張りを続けるので睡眠不足にもなりますが、疲れた顔を乗組員に見せてはいけない。つらいですが午前3時に起きて化粧するようなこともあります」(大谷)

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 陸戦兵が顔面を深緑色にペイントするのは、草むらに身を潜めるための偽装だが、大谷のメイクは部下たちに向けたもの。指揮官の気持ちの揺らぎを覆い隠すためのカムフラージュだ。「時と場合でお化粧レベルは松竹梅」と言って大谷は笑うが、護衛艦という男社会を統べる女のメイクは、まさしく“心の防御装置”なのだろう。

 大谷三穂は1971年5月に大阪府吹田市で生まれた。家族は地方公務員の父と専業主婦の母に、兄がひとり。

 3歳のころからバイオリンを習い、その腕前は長じて京都大学交響楽団の一員に加わるほどだ。本人いわく、女優のビビアン・リーに憧れ、長い髪をくるくるとカールさせた、「普段はひらひらのスカートに日傘を差して歩くような少女」だった。

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