幸福を求めて参画した団体が不幸と死をもたらす
「特講」はヤマギシ会の基本理念を体得するための講習会です。たとえば「怒り研鑽」と呼ばれる講習では、まず参加者に「一番腹が立ったこと」と、なぜ腹が立ったかを説明させる。ここで腹立ちの理由をどのように説明しても、係りのものは「何故それで腹が立つのか」という問いかけしか返してこない。この問答を何時間でもえんえんと繰り返し、時には受講者を挑発し、なだめ、情緒的にゆさぶりをかける。受講者は最後には「もう腹が立たなくなりました」と涙ながらに訴えるようになります。いろいろ理由付けはあるようですが、これはかなり強引に「解離」と呼ばれる症状を起こすための手法です。解離とは意識野が狭くなって暗示にかかりやすくなった状態のことで、たとえば「催眠術」は、この解離を人工的に起こすためのテクニックです。
ヤマギシ会は「参画」時に、財産をすべて団体に提供することを求め、脱会時にも返還しないため、一時期は反ヤマギシ会活動が起こりました。私は脱会者の聞き取り調査に関わった経験がありますが、うつ状態に陥ったり、自殺して亡くなった方が多いと聞いて愕然としました。幸福を求めて参画した団体が、その反作用のように、少なからぬ不幸と死をもたらしている。カルト周辺ではよくあることのようです。この調査に関わって以降、私はインスタントに幸福度や自己肯定感を高める手法全般を疑うようになりました。
安直に高められた自己肯定感による副作用
ネット上にも「自己肯定感を高める手法」の情報があふれています。
「ネガティブなことを書き出してみる」「自分を肯定する言葉を繰り返す」「寝る前に、その日にあった良いことを三つ数える」「悲観的な考え方を修正する」「SNSを見ない」「体を大きく見せるような、力強い姿勢を取る」などなど。私自身はためしたことはありませんが、どれもそれなりに有効だろうとは思います。うまくいけば一ヶ月くらいは幸福になれるかもしれません。しかしその後、ずっと幸福感が続くかといえば、いずれ大きな揺り戻しが来る可能性を否定できません。
私は安直に高められた自己肯定感は、遅かれ早かれ、必ず反作用をともなうと確信しています。もちろん自己肯定感を高める努力を全否定するわけではありません。高められた自己肯定感が、人とのつながりや活動の端緒となって、さらなる自己愛の成熟をもたらす可能性もゼロではないからです。ただ、私自身は、そうした手法を人に薦める気にはなれない、というほどの意味です。