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2023年の論点

“暴言で引退”の明石市長が語る、地方から国を変える方法とは…「国がやることやらへんから明石市で始めただけ」

“暴言で引退”の明石市長が語る、地方から国を変える方法とは…「国がやることやらへんから明石市で始めただけ」

泉房穂氏インタビュー #1

2022/12/29

source : ノンフィクション出版

genre : ライフ, 社会, 企業, 働き方

note

どうしてもやり遂げたかった仕事

 今回の暴言は問責決議案をめぐるものと報道されていますが、実のところ、12年間にわたって積もりに積もった議会への怒りからです。2021年の夏、コロナ禍対策の一環である「市民全員・飲食店サポート事業」が議会で通りませんでした。市民全員に1人5000円分、市内で使える金券を配る施策で、議会との事前の調整も済んでいたのに、なぜか突然通しませんよと。市民や飲食店などの事業者も経済的に困っているのに、議会で理不尽につぶされたらかないません。

 そこで「専決処分」(本来は議会で議決すべき事柄について、所定の規定のもと、議決を経ずに首長が決定できる)にして実施しました。これはもちろん合法です。「伝家の宝刀」を抜かずして議会に忖度するばかりでは、市民のための政策はできません。金券配布は市民に大好評でした。

 でも、議会からすると許しがたいことだったのでしょう。この決裂が感情的な対立にまで発展して、通るもんも通らんようになったんです。市民からすると「議会が敵で市長は味方」と見えたでしょうし、議会としては余計に、なにがなんでも私をつぶしたかったのかもしれません。

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 それでも、どうしてもやり遂げたい仕事が残っていたので、旧優生保護法による被害者を救済する条例の成立に奔走しました。私の弟は障害者で、弟に対する社会の冷たい仕打ちが、政治家を志した原点なんです。でも、福祉政策に理解のあるはずの方々の一部も賛成しませんでした。明石の障害者団体が一緒になって口説いてくれたから、賛成に転じましたけど、これも議員からしたらメンツをつぶされたと感じたのかもしれません。

ツイッターを始めた理由

 21年の12月21日に「旧優生保護法被害者等の尊厳回復及び支援に関する条例」が通った瞬間、涙がボロボロ出ました。自分としてもようやったなという達成感と、市長としてできる仕事はほぼ終わったなという思いでした。さらに新しい政策を打ち出そうとすれば、自公が多数派の議会で過半数を握らなければなりませんが、それは次の市議会選挙を経ない限り無理な話です。

泉房穂氏のTwitterアカウント

 それで、その日からツイッターを始めました。10年以上、やりたくてしょうがなかったけど、私のような性格の人間がやれば敵が増えるだけやから、我慢してたんです。でも、ここまで来たんだから、発信していきたいと思いました。いろいろつぶやくと、おかげさまで全国から視察も来るようになりました。22年6月に参議院の内閣委員会で、明石市の政策について参考人として話した動画もずいぶん再生されています。

 最近驚いたのは、22年10月のリクルートの「住み続けたい駅ランキング」関西版です。神戸市や芦屋市周辺の駅を差し置いて、明石市の人丸前駅が1位になりました。こんなこと10年前やったら、考えられません。