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 必ずしも「徴用工問題の解決」に至る必要はない。日韓関係筋は、請求権協定に反し企業に損害が生じる事態さえひとまず回避すれば「『徴用工』に端を発した経済衝突も、そこから生じた安保対立も解決される」と口をそろえる。

すれ違いの根本的な原因は「利害の不一致」

 しかし、安倍―文時代には、それがかなわなかった。韓国側が示した解決案はいずれも日本政府による譲歩が前提となっており、日本側は学生が提出したレポートを突き返すように「やり直し」を命じた。

「安倍元首相は礼儀正しい日本人だったが、リーダーシップについては評価したくない」

 文氏が22年4月、退任直前のインタビューでこう振り返ったように、交渉不調の背景には両首脳間の不信感も少なからず影響しただろう。

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 ただ、根本的な原因は、国際社会における「利害の不一致」にあった。米中の覇権争いが激化する中、文政権は米国と距離を置き、中国に接近。2大国を天秤にかけることで、「自主外交」の強化を目指した。米国との安全保障協力強化により中朝を牽制したい安倍政権とは反対の方向に動いたことで、関係改善のモーメンタムは生まれず、最高裁判決から3年半もの月日が無為に流れた。

「日本は力を合わせるべき隣人」

 22年5月に発足した尹錫悦(ユン・ソンニョル)新政権は、外交方針を180度転換した。大統領当選前から、前政権下で対日外交が「失踪状態にある」と批判を強めた尹氏は、就任後も

「日本は今や、世界の市民の自由を脅かす挑戦に立ち向かい、力を合わせるべき隣人だ」(8月の演説)

 などと、関係改善に向けた姿勢で一貫している。

プノンペンで会談する韓国の尹錫悦大統領(左)と岸田文雄首相 ©EPA=©時事通信社

 尹氏の言動に、なお懐疑的な視線を向ける日本人は少なくない。「期待を持たせて、政権後期に支持率が低下すれば『反日』カードで求心力回復を狙うのではないか」。

 脳裏をかすめるのは、「任期中は歴史問題を公式に争点化しない」と明言しながらその後「対日外交戦争」に転換した盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏や、「未来志向の日韓関係」を掲げつつ、政権後期に現職大統領として初めて竹島を訪問、日韓関係悪化を決定づけた李明博(イ・ミョンバク)氏の姿だろう。