1ページ目から読む
3/3ページ目

「反日カード」が切られるのではという懸念はもっともだが…

 懸念はもっともだが、こと尹政権においては、ある程度楽観できるのではないか。それは、前政権と日本に根本的な「利害の不一致」が存在したのとは対照的に、尹氏の外交戦略と対日関係改善が、はっきりと同一線上にあるためだ。

 韓国は22年5月、最大の輸出相手国である中国との貿易収支が、94年以来約28年ぶりに赤字に転落した。

 中国が先端産業の「国産化」戦略を進める中、尹政権は「中国の『代案』となる市場が必要だ」(大統領府高官)として、防衛産業や原子力発電所建設の海外進出を加速。

ADVERTISEMENT

 強権主義の中露と距離を置き、民主主義陣営の側で輸出産業を発展させる「経済安保」を国家戦略とする以上、同陣営である日本との協力強化は不可欠だ。

 むしろ、問題となるのは尹政権そのものではなく、彼らを取り巻く環境だろう。韓国国会は24年春の総選挙まで、議席の6割近くを革新系野党「共に民主党」が占める。

 徴用工問題の有力な解決策の一つは、被告企業を除く日韓の有志企業を中心に新たな基金を創設し賠償を肩代わりする案だが、基金設立法案に野党が協力する見通しは低い。

 既存の基金を活用して賠償を肩代わりし、国会同意を省略する場合には、政策の継続性が問題になる。韓国で政権交代が起こった途端、前政権が結んだ外交協定を反故にするというのは、15年の日韓慰安婦合意で目撃したばかりだ。

 それでも、事実上の核保有国となった北朝鮮に対応し、日米韓が安保協力を強化する必要性に疑いの余地はない。日本政府は「国と国の約束を守る」原則を貫きつつ、尹政権が困難なミッションを達成できるよう積極的に後押しすべきだ。

 もちろん、日韓が真に関係改善を目指すならば、国民同士が時間をかけて交流を広げ、信頼関係を築くことが最も重要だ。両国関係の行方を左右するのはこれまでも、そして今後も、指導者2人の「キャラクター」ではない。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。