しかし酢締めのサバを原因とするアニサキス食中毒の患者が、実際にはとても多い。そもそもサバ(マサバとゴマサバの総称)は、アニサキス食中毒患者を最も多く出している対象魚種なので、酢締めの後に必ず前述の条件で冷凍すべきである。
わさびも、強力な殺菌作用を持つと言われるが、醤油や塩も含めて、調理で使う程度の量や濃度、処理の時間では、残念ながらアニサキス幼虫を死滅させることはできない。
厚労省は目視での確認と除去を、アニサキス食中毒の予防法の一つとして通知している。スーパーの鮮魚売り場や寿司屋などで、アニサキス幼虫を目ざとく見付けて除去する鮮魚加工のプロの技を、報道でも見掛ける。しかしアニサキス幼虫は、魚肉の深部に侵入して寄生することもある。目視での除去は食中毒のリスクを下げるが、すべての幼虫を取り除くのは困難だ。
養殖魚は安全?
一般に養殖魚は安全だとされてきた。人工種苗から作出されたマサバの稚魚に人工飼料を与え、人工海水で養殖する完全な養殖が一部地域で始まっており、この試みでアニサキス寄生がない魚が得られる。
しかし養殖マサバでも、エサに冷凍処理をしていない生魚を与える施設もあり、アニサキス幼虫が検出されている。従って養殖と記された魚であっても、その内容を詳しく確認する必要がある。
新たな予防法として、パルスパワーを用いたアニサキスの殺虫技術が熊本大学の浪平隆男准教授とジャパンシーフーズにより共同開発された。1億ワットの電力を1マイクロ秒間だけかける。これを繰り返すことで、アジの切身に挿入したアニサキスを感電死させることに成功している。実験に使用した切身は、未処理の切身と比べても味・香り・色・食感ともに遜色ないという。社会実装には魚種や量産化に課題は残るが、冷凍に替わる方法として大いに期待されている。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。