安価で良質なタンパク質が摂れる鶏むね肉が人気を博し、年々需要が高まっている鶏肉。近年では、飲食店で提供される“鶏刺し”や、表面を焼いた“鶏のたたき”を好んで食べる人もいるだろう。

 しかし、生や半生の鶏肉をそのまま食べるのは、たとえ肉が新鮮であっても「カンピロバクター腸炎」という食中毒を招くハイリスクな食事法だという。

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『肉の新鮮さ』を推している店で

 向井直美さん(仮名)は、4年前に飲食店で“鶏の刺し盛り”を食べた後、カンピロバクターによって引き起こされる「カンピロバクター腸炎」を発症したひとり。

「仲のいい友人3人で、鶏料理が有名なお店に行きました。看板メニューの鶏の刺盛りのお皿には、鶏もも肉やレバ刺し、表面に焼き目をつけた“鶏のたたき”も盛られていましたね。お店側は『肉の新鮮さ』を推していたので、それなら大丈夫かと思ってみんなでおいしくいただいたんです」

写真はイメージ ©️iSotck.com

 しかし、それから2日後、向井さんを含めてその日同席していた3人が、激しい腹痛と下痢に襲われたという。

止まらない下痢、38度を超える発熱

「下痢が止まらず、熱も上がり、最終的には38度を超えました。私の場合は、嘔吐はなかったのですが、とにかく下痢がひどく、血便も出てきました。LINEで友だちに連絡すると、全員まったく同じ症状でトイレから出られなくなっていたんです。でも、まさか自分たちが食中毒になっているとは思わず、初めは当時流行っていたインフルエンザを疑いました」

 彼女はギリギリの状態で電車に乗り、内科クリニックに駆け込んだ。すぐにインフルエンザの検査をしたところ、結果は陰性。次に向井さんは、医師から検査用の長い綿棒を渡されたという。

「病院のトイレで肛門に綿棒を挿して、便を取ってくるように言われたんです。なんでも、腸の中の細菌を育てて調べる『便培養検査』を行う、と説明されました。戸惑っていると、看護師さんが『難しかったらお手伝いしますよ』と言ってくれましたが、さすがに恥ずかしかったので、自分でやりました。なかなか貴重な体験でしたね」

 便培養の結果が出るまでは数日かかるが、問診の際に過去数日間で食べたものを医師に伝えると「カンピロバクター腸炎の疑いがある」とされ、薬を処方された。

「病名を聞いたときは、カンピロバクターって何?って感じでしたが、友人たちも同じような診断を受けていました。いわば、プチ集団食中毒ですよね。それから少しずつ回復はしたものの、4日くらいは調子が悪かったです。その間、ちょっと回復したかと思ってお粥以外を食べると、すぐお腹を壊す……その繰り返しでした」

 その後、再びクリニックを受診したところ、便の培養からカンピロバクターが検出され、正式にカンピロバクター腸炎の診断が出たという。

「体調が戻るまでに5日ほどかかって、体重が4キロも減りました。こんな不健康なやせ方はこりごり。もう一生、生の鶏肉は食べない覚悟を決めました。今も焼いた鶏肉は食べますが、かなり慎重に加熱調理をしています」

 楽しかった飲み会の思い出が、地獄のような療養期間の記憶に塗りつぶされたと、向井さんはため息をついた。