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「5日間で体重が4キロ減った」下痢だけでなく血便も…カンピロバクター食中毒、“本当の怖さ”

2022/08/22
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カンピロバクター腸炎が増えているワケ

 胃や腸の不調に詳しい江田クリニック院長・江田証医師は「加熱が不十分な鶏肉を食べるのは、非常にキケンな行為」と警鐘を鳴らす。

「人に感染してカンピロバクター腸炎を引き起こすのは『カンピロバクター・ジェジュニ』という種類の細菌。鶏だけでなく、犬や猫、牛や豚の腸管にもカンピロバクターは生息していますが、発症する人の多くが“加熱不足の鶏肉”を食べて、カンピロバクターに感染しています。ちなみに“肉の新鮮さ”と、生で鶏肉を食べることの安全性はまったく関係ありません。むしろ、肉が新鮮なほど多くのカンピロバクターが生存しているといわれています」

 現在の日本では、細菌性食中毒の原因ではサルモネラ、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌に次いで発生件数が多いのがカンピロバクターだという。先日も、石川県の飲食店で鳥刺し盛り合わせを食べた2人の男性が、下痢や嘔吐、発熱を訴え、彼らの便からカンピロバクターが検出されたと報じられた。

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 江田医師は、カンピロバクター食中毒が増加している理由についてこう分析する。

「ひとつは、美食志向の高まりですね。鶏肉は焼くと固くなるので『柔らかいレアの状態で食べたい』というニーズがあるようです。また、以前よりも検査の培養技術の精度が上がり、医師が正確にカンピロバクター腸炎の診断を出しやすくなった、という臨床現場の変化も件数の増加に表れていると考えられます」

写真はイメージ ©️iSotck.com

 また、バーベキューで焼いた鶏肉や、屋台で買った焼き鳥などがカンピロバクターの感染源になるケースも。そうした季節のイベントや気候が関連しているのか、カンピロバクター食中毒の発生は5~8月にピークがあるという。

「カンピロバクターは、人の腸に入ってから細菌が増殖するまでに時間がかかるので、潜伏期間が2~5日とやや長いのが特徴です。症状としては、激しい腹痛と発熱、水様下痢が続き、血液が混ざった血便が出ることもあります」

 水を多く含んだ下痢で水分が失われるため、脱水症状を起こして点滴が必要になることもあるそうだ。症状が重い場合は、すぐに内科や消化器内科を受診してほしい、と江田医師。

「私が診察をしたカンピロバクター腸炎の患者さんたちは、みなとても辛そうな印象でした。『ギランバレー症候群』を発症した患者の約30%には、「先行感染」(ある病気を発症する前に感染し、病気の引きがねとなる感染症のこと)としてカンピロバクター腸炎が存在すると考えられています。つまり、カンピロバクター腸炎にかかったあとにギランバレー症候群を発症する人がいるのです。

 ギランバレー症候群とは、10日ほどかけて足から上半身に向かって麻痺が進行していく神経障害の一種。呼吸器の筋肉が麻痺に侵されると、回復するまで人工呼吸器を必要とする場合もあります」

 ギラン・バレー症候群の多くは自然治癒するものの、15~20%はなんらかの後遺症が残る可能性があるという。