刺身、寿司で鮮魚を生で食する文化をもつ日本では、ずっと魚の寄生虫に悩まされてきた。なかでも馴染みが深いのはアニサキスだろう。最近もある芸能人が感染し、体験談をネットで紹介していたが、大変な様子がよくわかった。
アニサキスの成虫はクジラに寄生している。この成虫が産んだ卵がクジラのフンとともに海中に排出されて幼虫に発育し、オキアミという小さなエビに似た甲殻類に摂取される。さらにオキアミはさまざまな魚に捕食されるが、アニサキスの幼虫は消化されずに体内に蓄積される。その魚を食べた人やクジラがアニサキスに感染するのだ。
人体内ではアニサキスは幼虫のままで、成虫には発育しない。最終宿主のクジラに食べられないと成虫に発育することはない。
人間ドックを受診した健常者の胃粘膜からたまにアニサキス幼虫が検出されるが…
刺身と一緒に人に摂取されたアニサキス幼虫は胃粘膜に取り付き、激痛を引き起こす。胃アニサキス症と呼ばれるこの激痛は、幼虫が胃粘膜に食い付くのが原因ではなく、アレルギー反応の結果である。
人間ドックを受診した健常者の胃粘膜からたまにアニサキス幼虫が検出されるが、本人は自覚症状もない。このような無症状の人は、アニサキス幼虫に対してアレルギー反応を起こしにくいと考えられる。
逆に過敏に反応する人もいる。胃アニサキス症の患者の中には、全身のアレルギー反応である蕁麻疹(じんましん)を発する人も多く、まれにアナフィラキシー・ショックに陥る激症例もある。
全食中毒の中で最多のアニサキス患者数
アニサキス症は、原因が細菌やウイルスの場合と同様に、食品衛生法により食中毒として取り扱われている。2012年の法改正でアニサキスを単独で記録するようになって以降、アニサキス食中毒の事件数・患者数が国の食中毒統計に集められ、ウェブサイトでも自由に見られるようになった。この統計には、感染源となった魚種、わかる場合には調理法も記載され、感染予防にも役立つ情報源となっている。