浜辺のシーンの撮影で、渡辺さんが容赦なくあの巨体で倒れ込み、半ばあやうく溺れかかった郁恵さんがもがいている様を、熱演と勘違いした渡辺さんがずっとそのままでいて……(当時以来観ていないので、若干ディテールは異なるかもしれません)と、その場で渡辺さんに怒った。渡辺さんは平身低頭謝るが、当の郁恵さんはちっとも嫌そうでなく、心底嬉しそうに語っている彼女の姿が印象に残っている。
結婚はその3年後。当時、郁恵ちゃんファンだった筆者も、この非のうちどころのないカップルには“おめでとうございます”の言葉しか見つからず……心より祝福したものだ。
休憩中も子供たちの相手を…
‘90年代に入るとその明るいキャラとふくよかボディを活かして、料理番組をはじめバラエティ番組の司会・タレント業が増えるが、中でもテレビ東京系で放送された『スーパーマリオクラブ』(’90~’93年)は渡辺さんにはぴったりの番組だった。
タイトル通り、任天堂の傑作ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」をフィーチャーした子供向けバラエティだが、テレビ誌記者時代、筆者はこの番組の現場を何回か取材した。休憩中も渡辺さんは楽しそうに子供たちの相手をしており、“ああホントにこの人は子供好きなんだな。家でもきっとこうやっていいお父さんなんだろうな”と思ったものだ。
収録の合間に筆者は、個人的に大好きだったドラマ『ハングマンGOGO』(’87年)のお話を切り出した。『ハングマン』は、人気時代劇・必殺シリーズの現代版を狙って制作されたドラマで、悪人を殺さず大恥をかかせて社会的に抹殺、あるいは警察に逮捕させるという勧善懲悪ドラマで、必殺に並ぶABC(朝日放送)の人気シリーズとなった。
その第7作目が『ハングマンGOGO』で、渡辺さんは悪を懲らすハングマンチームのリーダー、ダブルこと長浜昭太郎役を演じた。
「『ハングマン』? ああ、あれ観てくれてたんですか? いやあの番組は楽しかったですよ。プロデューサーの山内(久司)さんがシャレの分かる方で。“もう渡辺さん、どんどんハメを外してやっておくんなさい”と言ってくださって。松田優作さんの『探偵物語』(’79年)みたいに予告編のナレーションなんかも読ませてもらってね。“キライキライキライキライ!”とかアドリブも入れたり……いやホント、あれは面白かった」
笑顔で撮影当時を振り返る渡辺さんの姿を見て、ドラマの一ファンとしてこちらもすっかり嬉しくなった。やはり自分が大好きなドラマや映画の主演を張った役者さんが、“あれは楽しかった”と語ってくれるのはファンとしてとても幸せなことだ。