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フラメンコを披露した彼女とのあっけない最後

 次に紹介する破談のケース。これはあっという間の出来事だった。僕が務めていた広告会社では、毎年銀座の交差点辺りの展覧会場で「ポスター展」を開催していた。展示場の入り口に受付があった。僕は担当する部署のお手伝いをすることになった。しかし、むくつけき男が受付にいてはということで、女性のアルバイトを頼んだのだ。まあ、ご想像の通り、その女性が気になる存在となったわけである。

 彼女は大学生なのだが、僕の会社に近いホテルでアルバイトをしていた。というのも、彼女の父親がそのホテルの系列の会社に勤めていて、将来はホテルマン(ウーマン)を目指しているのだとか。しかし、父親よりも、母親の話をしなければならない。結構有名なフラメンコダンサーなのである。彼女は母親譲りでスタイルが抜群だ。もともと僕はスタイルで女性を選ぶようなことはしないのだが(だって自分がご存知のようにチビで短足だから相手を身長で選ぶわけにはいかないから)、彼女に関しては例外だと言える。

©東京キララ社

 彼女は大学の文化祭でフラメンコを踊るという。僕にとって久々の文化祭だった。華やかな雰囲気に飲まれながらも、彼女の出番を待つ。実は予め彼女に写真を撮ってもいいかと許可を得ようとしたのだが、「恥ずかしいから撮らないで」と言われ、残念ながら彼女の晴れ姿をフィルムに収めることができなかった。

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 フラメンコは素晴らしかった。彼女が踊るシーンは目にしっかり焼き付けておいた。しかし、早くも別れ話となる。そう、兄の話をしたのだ。その当時は事件からそんなに時間が経っていなかったので、彼女の反応は早かったと思う。彼女を東京駅の改札まで見送った。あまりにもあっけない最後だった。彼女が改札を通って、こちらを振り返り手を振る。スラリとした背が印象的だった。

 以上が僕の恋の失敗談だ。モーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」では、遊び人ドンファンが出てきて自分の愛人のリストをひけらかすシーンが有名だが、今まで書いてきたことは決して華やかな恋愛ではなく、むしろ振られた話を列挙しただけの、残念集、自虐ネタ集と思ってもらえばいい。