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超加工食品を食べ続けると引き起こされる深刻な不調

――土から牛を見た時に全く違う側面が見えてきて驚きました。

 ゲップという要素だけで、牛を欠陥品とみなし切り捨てる、テクノロジーで置き換えればいいという発想自体が、極めてアメリカ的な合理主義、科学技術至上主義的なものの見方なんですよね。実は何を隠そう、私自身がかつてそうだったので、反省を込めてなんですが。

 大学で渡米した私にとって、アメリカンライフスタイルは憧れそのもので、ファストフードにもしっかりハマっていました。どの州に行っても同じ味が手に入る安心感! なんて早くて安くて便利なんだろうと感動していた。画一化された大規模なトウモロコシ畑を見ても、わぁ一面黄色いな、凄いなアメリカ映画と同じだ、ダイナミックだなぁ……などと喜んでいる、今思えばとんでもない学生だったんですね。

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 ところが大学院を出たあと、国連や現地の証券会社で働きながら、アメリカ的な超加工食品を食べ続けた結果、20代の終わり頃になって、ひどく身体の調子が悪くなってきたんです。吹き出物がいつまでも治らなかったり、食べても食べても痩せてゆく、腹痛に苦しめられ、精神的にも不調が出はじめた。食べたものが私になる、という言葉の意味を実感した、とても怖い時期でした。

 9・11のあと日本に帰国して、医者に告げられたのは、「総理と同じ消化器系の難病です。一生治りません」という言葉でした。難病指定なので保険こそ利くものの、ステロイドの薬を使わないといけないし、乳製品から揚げ物まで食べてはいけない食事のリストがすごかった。

 いろいろな薬やサプリも試しましたが全く効かない、まさに絶望的な日々でした。

偶然出会った中国医学が症状を改善し、価値観を大きく変えることに……

――潰瘍性大腸炎は相当つらいですよね。

 でもある時、偶然出会った中国医学の先生に、「あなたは自分の身体をモノ扱いしてきましたね」と言われたんです。「腸と畑の土壌は同じ。ボロボロになった腸にいくら高いサプリを入れても吸収しません。まずは土台を自然からもらった状態に戻しなさい」と。

 藁にもすがる思いで、食を変えて腸内蘇生治療を行ったところ、なんと3ヶ月で症状が出なくなったんです。「食」というものを通して「土と腸は同じ」であることや、全ては循環の輪の中の一部であるという気づきは、その後長い時間をかけて私のなかで温められ、人や、社会や、あらゆるものに対する考え方の根幹を、大きく変えてゆくことになりました。

 

 毎日口にするものは、肉体だけでなく、私達の価値観も作ってゆく。食を問うことは、文化を作り、未来を変えてゆくこと、本当に大切なんだと、深く考えさせられたのでした。

『ルポ 貧困大国アメリカ』の取材で、大規模にオートメーション化された畜産現場に大変ショックを受けた時、単純にもう肉食は止めなければ、などと思った事を思い出しました。 

 考えてみれば、アメリカでは悪いところがあれば切る、足りない栄養素があれば外から足す、という考え方が主流で、それこそが、近代工業的なものの見方だったんですね。いつでも、どこでも、好きなだけ、あらゆるものが便利に手に入ることを目指すグローバル資本主義は、農産物も、畜産も、「生産性」という物差しが最優先される結果、いのちは「モノ」になってゆく。でも、食べ物と工業製品との大きな違いは、食はすべて自然からの「いただきもの」だということなんですね。

 工業化された畜産が、動物だけでなく、生産する人間もモノ扱いする手法である事をみれば、気候変動対策で、牛を“悪魔化”するより大事なことが見えるでしょう。問題の本質は、人間VS家畜ではなく、一握りの人々が市場全体を支配する、独占型の構造なのです。個々のフードテックやデジタルなど、テクノロジーは道具にすぎず、そこに善悪はありません。