忽然と姿を消したスーザン
スーザンは姿を消す1年前から、離婚に向けた証拠の整理を始めていたことがわかっている。彼女はビデオにすべての訴えを記録して残していたのである。
そこにあったのは、夫婦仲が完全に冷え切っていること。日常的に暴力を振るわれ、命の危険を感じていること。
万一、自分が不慮の死を遂げた場合は、夫の犯行を疑ってほしいということ。そしてもしそうなったとしても、子供たちは夫には絶対に引き取らせないほしいということ。
あまりにも切実なその訴えは、映像だけでなくテキスト化して銀行の貸し金庫に預けられていた。
それほどの危険を感じていたにもかかわらず離婚に踏み切らずにいたのは、それがモルモン教の戒律に背く行為であるからだろう。
そして、運命の時は訪れた。
2009年12月7日、月曜日。2人の息子が通う幼稚園から、ジョッシュの母親に連絡が入った。2人が登園しておらず、両親どちらにも連絡がつかないとのことだった。
心配した母親は、すぐにジョッシュの自宅を訪ねたが、応答はない。異常を察した母親が通報すると、すぐに警官がやってきた。
家の中に踏み入ってみると、やはり一家の姿はそこになく、ただ2つの扇風機がソファに向けて風を送っているだけだったという。
事件、あるいは事故に巻き込まれた可能性を視野に、警察の本格的な捜査が始まった。
しかし、その日の夕方。ジョッシュは2人の息子と何食わぬ顔で帰ってきたのである。
警官の事情聴取に対し、ジョッシュはこう証言した。
「昨夜、ディナーを食べ終わった後、妻は気分が優れないと言って横になっていたんです。私はその後ふと思い立ち、息子たちを連れ、車で2時間ほど行ったところにあるキャンプ場へ遊びに行きました。今朝、自宅に戻ると妻の姿がなく、携帯電話もつながらないので、今まで3人で捜し回っていたんです」
ところが、4歳の長男チャーリーが警官に対し、まったく異なる証言をしたことで事態は急転する。
「4人でキャンプ場に行ったけど、ママが景色の良い場所に残っていたいと言ったので、3人で帰ってきました」
この証言の食い違いから、警察はジョッシュに疑いの目を向け、パウエル家に対する「家宅捜索令状」を取ったのだった。