文春オンライン

そのとき現場で何が起きたか

死亡した全員が低体温症による凍死だった 「過去最悪」大雪山系の遭難事故で“明暗”を分けたガイドたちの判断

死亡した全員が低体温症による凍死だった 「過去最悪」大雪山系の遭難事故で“明暗”を分けたガイドたちの判断

#1

2023/02/12

source : 文藝春秋 2009年9月号

genre : ライフ,

note

ツアーの参加者がバラバラに

「3人のガイドのうち、2人がトムラウシ山での登山経験がない」「民間のガイド資格を有するものは1人しかいない」という点も、声高に報道されていた。もちろん、登る山への経験はあるほうがよいが、一番大切なのはガイドの資質を持ち合わせているかどうかである。今回のケースでは、残念ながら首を捻らざるを得ない。

 驚いたのは後半にツアーの参加者がバラバラになってしまったことだ。登山ツアーの参加者には自分たちだけで山へ行くのには不安があるから、と申し込む人も少なくない。そのような技術、体力の劣る登山者に対して、ガイドとしてホスピタリティやケア不足の感があったことは否めない。

 ガイドの資質で最も重要なのは、豊富な登山経験に基いて、いろんな状況に臨機応変に対応できることだ。僕自身の体験を例にとってお話ししよう。

ADVERTISEMENT

 数年前、中央アルプスの空木岳から木曽駒ヶ岳までを12人で縦走した。空木岳を登頂して木曽殿山荘に泊まり、木曽駒ヶ岳へと出発した日の天気予報は「昼前から崩れる」。朝起きたときは素晴らしい青空だったのに、午前10時を過ぎた頃、ぽつんと雨粒が落ちた。雨具を着ないまま歩くこともあるのだが、このときは妙なカンが働いて、即座にパーティを止めて、雨具の着用を指示。みんなが着終わらないうちに本降りの雨になって、冷たい西風も吹き出した。

写真はイメージ ©iStock.com

 僕は「岩崎流ゆっくり歩き」を推奨しているので、このときもグループの半分は脚力が弱い人たちだった。通常であれば、みんなでゆっくり歩いていても問題はない。しかし、天気の崩れや思わぬアクシデントが起って、安全圏に早く行きたいときには、脚力がある人にとってはペースを落として歩くこと自体がストレスになる。その時点で、僕はグループを2つに分けて、歩ける人はサブリーダーとともに先行してもらった。リーダーとしてメンバーの体力、技術を判断し、グループを分けることに決めたのだ。