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「面倒見はまだか」「なんか重いの出してよ」かつての留置場内にあった、ヤクザと警察官の“持ちつ持たれつ”なシステムとは《元ヤクザの牧師&ヤクザ研究者対談》

「面倒見はまだか」「なんか重いの出してよ」かつての留置場内にあった、ヤクザと警察官の“持ちつ持たれつ”なシステムとは《元ヤクザの牧師&ヤクザ研究者対談》

genre : ライフ, 社会

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進藤 私は高校をすぐに退学になり、そのままヤクザになってしまいましたから、大学に入り直して博士号までとられて廣末先生は本当に立派です。ヤクザを研究している学者さんがいると聞いた時は驚きました(笑)。今は昔以上にヤクザに接したりその名前を言うのもはばかられる存在ですから。

廣末 確かに調査・研究のために進藤先生のような元職はもちろん現職のヤクザの方々ともお付き合いをしているので、コンプライアンスの問題で大学に常勤職では雇ってもらえません。私がヤクザの研究を始めたきっかけは、博士論文を書くために大阪の元ヤクザの牧師さんがやられているキリスト教教会で、更生のために住み込みで働いていた元ヤクザの方にインタビューをしたことでした。なので牧師の進藤先生には親近感がわきます。そういえば進藤さんが盃を交わされたのはおいくつの時だったんですか?

開拓伝道をはじめてまもない頃に「マッドマックス誌」に掲載された写真 撮影ぺ・ソ

進藤 私は18歳だった1989年なので、平成元年です。昭和、平成、令和と分けるとまさに平成ヤクザになります。当時すでにヤクザになる若い人は減ってきていて、少年ヤクザは珍しかった。バブルがはじける前なので、地上げが主な仕事でした。マンションの住人を立ち退かせるためにとなりの部屋でラジオを爆音で流したり、壁を蹴ったりして嫌がらせをする。まさに暴対法で禁じられた行為ですね。その後は過去に取材でお話ししたように覚醒剤にどっぷりハマり売人をしていました。

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「ヤクザの人数自体は減っています。ただ…」

廣末 この30年でヤクザを取り巻く環境は大きく変わりました。確かに地上げやキリトリ(債権回収)、覚醒剤などの取り締まりがきびしくなり、シノギのないヤクザの人数自体は減っています。ただ問題なのは、代わりに増えている盗みや詐欺など、匿名を武器に何にでも手を出す半グレの実態の把握が警察ですら困難になってきていること。暴力団員の数は減っていても、反社会的な人間の数は決して減っていないと考えています。

廣末登氏

進藤 半グレがヤクザの手下になっているケースもありますよね。組員が事件を起こすと使用者責任を問われる時代ですから、組員よりも半グレを使った方がヤクザのお偉いさんにとっても安全というメリットがあります。

廣末 そうです。さらにヤクザと関わりを持たずに老人や女子供に手を出す半グレも多い。彼らにインタビューすると、暴力団と違うのが「仲間内をまったく信用していないこと」で、すべてが金という考え方なんです。暴力団員は仁義を重んじて、見ず知らずの老人を縛り上げて物を奪うような事件を起こす例は少ないですが、半グレはそういったことも平気でやります。そういう集団が何層にもからまって“アンダーグラウンド”がメルトダウンしているのが現状なんです。

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