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「死んだ顔を見ているうちに劣情をもよおし…」40歳女性を殺した犯人が現場に「精液」を残した“最低の理由”

『昭和の凶悪殺人事件』 #3

2022/12/30
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持ち主不明の謎のアドレス帳

「助手席で見つかった名刺入りのアドレス帳には、北村夕子さんの名前と電話番号が書かれている。つまり、これは彼女のものではないということだ……」

 アドレス帳から採取された指紋を照会したところ、藤村博という20歳の男の指紋と合致した。藤村はG市内のデートクラブでチラシ貼りの仕事をしているため、この男こそ“本ボシ”ではないかと捜査本部は沸き立った。

 そこで捜査員は藤村の内偵を重ねたうえで、任意同行を求めることにした。突然の捜査員の来訪に驚きを隠せない様子の藤村だったが、同行には素直に応じた。

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「北村なんていう女は知らない。このアドレス帳は×月初めの深夜、I駅付近の公衆電話ボックスでビラ貼りをしているときに拾ったものだが、いつのまにか落としていた。それに、事件があった日は、T市で開かれた同級生会に出席し、朝まで飲んでいた」

 藤村の供述は捜査員によってすぐに裏付けが取られた。すると、同級生や飲食店主らの供述によってアリバイが成立したのである。また、遺体発見現場で検出されていた精液の血液型とも合致しないことが判明し、彼は捜査線上から外れることになった。

 これらの捜査と並行して、アドレス帳の本来の持ち主探しが行われたところ、P市に住む高田邦弘の名前が浮上し、彼に対する事情聴取が決定した。

「たしかにこのアドレス帳は私のもので、×月×日にI駅近くの電話ボックスで紛失しています。ただ、アドレス帳に北村夕子と書いた記憶はないので、拾った人が書いたのだと思う」

 高田が供述する通り、アドレス帳に書かれた「北村夕子」の筆跡は、その他のものとは明らかに異なっていた。また、使用されたペンのインクも違う種類だったため、高田が遺失して藤村を経由したのちに、犯人の可能性が高い誰かによって記載されたのは、間違いないと考えられた。

 これで捜査は、またもや振り出しに戻ってしまったのである。