捜査員がG市に住む会社員の坂本伸介に事情聴取をしたところ、彼は交際の事実を素直に認めた。その受け答えから、捜査員はシロとの印象を抱いたが、念のため唾液を入手し、目の前で「北村夕子」という文字を書いてもらうことにした。
すると、彼が記した「村」の字が、アドレス帳に書かれていたのと同じ、真ん中の点が抜けた誤字であることを捜査員は見逃さなかった。ただし、その場では表情に出さず、坂本の筆跡を捜査本部に持ち帰った捜査員は、すぐに会議で報告する。
「唾液の鑑定結果が出ました。精液と同じA型です」
捜査本部のなかで、坂本について被疑者の要素を十分持っている存在として、密かに内偵捜査を進めることが決められた。
それと同時に、その他の不審者がいないか、アドレス帳に記載された人物への事情聴取も続けられたが、ほかに不審者は浮上してこない。そのため、坂本を任意同行のうえ、ポリグラフ検査を実施して、取り調べることになった。
死んだ女性の陰部に精液を塗り込んだ
〈服を着たままの状態で殺した。殺害場所は車のなか。死体は前の座席にあり、現金を盗んだ──〉
数日後に実施された坂本のポリグラフ検査では、顕著な陽性反応が現れ、彼の容疑は極めて濃厚との判断が下された。
その検査結果に自信を持った取調官は、坂本を徹底的に追及する。すると間もなく、彼は「夕子、申し訳ない」と頭を垂れて、犯行を自供したのだった。
坂本によれば、昭和60年夏にデートクラブで出会って以来、彼は夕子をすっかり気に入ってしまう。その後、週に1回の割合で会いながら、旅行などにも出かける関係となった坂本に対し、夕子は「引っ越したいから、28万円貸してほしい」と申し出た。そこで坂本は銀行でローンを組み、彼女にカネを融通したという。
そうして部屋を引っ越した夕子だったが、坂本には転居先の電話番号だけしか知らせず、「P市にいる兄が入院したので看病に行く」と告げて、2年間近く音信不通になってしまったのである。
