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 近づいて見ると野添だった。「よくやった。よく見つけてくれた、本当にご苦労様でした」と慰労するつもりで肩に手をかけた。

 野添は大粒の涙を流して男泣きしている。野添には、2人の娘がいて、年の頃もルーシーと同じなのだという。

「ルーシーが呼んでいたんだな……」

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 有働は、初めて胸が締めつけられる思いを感じ、涙が滲んだ。

洞窟の中には、遺体が放つ臭気が…

 発掘作業は夕刻までには終了したが、鑑識課員は、狭い洞窟で窮屈な姿勢を強いられながらも作業を続けた。外から見られないよう青いビニールシートで洞窟全体を覆ったことから、換気状態が悪く、その上さらに照明がたかれ、遺体が放つ臭気と濁った空気が澱んで、最悪な状態だった。ベテランの鑑識課員はともかく、現状保存に当たった捜査員たちは、防臭マスクを着けなければ息もできないほどだった。

「最後になってルーシーさんが助けてくれた」

 捜査員たちはそう言いながら、それぞれ線香を上げ、黙禱を捧げてから現場を後にした。

 阿部以下、捜索隊は周辺を片付け、見張り役2名を残して「D荘」に帰った。

 宿の人たちが、阿部たちを出迎えて声をかけてくる。

「やっと見つかったんですね。ご苦労様でした」

 どうやら夕方のニュースで遺体発見の事実を知ったらしい。

 最後の宿泊。食卓には、女将の心づくしの大きな船盛りが置かれていた。

 ルーシーのものと思われる惨たらしい遺体は、麻布警察署の車庫にいったん運ばれた。村岡光鑑識課長、久保正行鑑識理事官、有働理事官らが見守る中、鑑識課員が白いビニール袋を開けていく。

ルーシーさん(右)と父親のティムさん ©時事通信社

「空気に触れたら最後、顔が崩れてしまう」

 両腕、両足、両足首、胴体、頭部と合計8つに切断されていた遺体は、湿った砂の中に埋められていたためか腐敗はそれほど酷くなく、ほぼ死蠟化し、白い石鹼のような状態になっていた。しかし、その臭気にはその場の全員が顔を顰めた。

 頭部はセメントを被せるように塗り固められていたが、塗りは薄く、顔は十分に識別できた。

 鑑識課員が鉈のようなものを頭部に当て、その背に金槌を振り下ろして割ろうとした時、傍らの有働が静かに声をかけた。

「割った瞬間に写真を撮れ。空気に触れたら最後、顔が崩れてしまう」

 頷いた鑑識課員は、細心の注意を払って金槌を振り下ろした。一瞬にフラッシュが光り、セメントに覆われた顔が光の中に浮かぶ。

「ルーシーだ……」

 生前のルーシーの写真が頭にある誰もが口々に言った。

 後日、ルーシーの両親から渡された爪と遺体の皮膚とをDNA鑑定した結果、発掘された遺体は紛れもなく、ルーシー・ジェーン・ブラックマンのものだと断定された。

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