2000年、六本木で働いていた英国人女性ルーシー・ブラックマンさん(21歳、死亡当時)が行方不明に。神奈川県三浦市内の洞窟で発見された遺体は、性的暴行の末にバラバラに切断されていた。
捜査一課による執念の追跡によって、会社役員・織原城二(逮捕当時48歳)が真犯人であること、ルーシーさんの他に性犯罪の被害者が200人以上いることが判明。
ここでは刑事たちが事件の真相を語った『刑事たちの挽歌〈増補改訂版〉』(髙尾昌司 著、文春文庫)を一部を抜粋・再編集して紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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平成19年(2007年)4月24日午前10時。東京地方裁判所104号法廷。俗にいう「ルーシー事件」の第一審判決が下されようとしていた。
この事件は、被告人・織原城二がクロロホルムなどの薬物で女性を昏睡状態に至らしめ、その上で陵辱の限りを尽くしたとされるもので、世間を大きく賑わせたことから、裁判所の前には傍聴券を求める人たちが朝から列をなしていた。
検察と弁護側が全面対決
被害者は、準強姦行為を受けたとする女性6名と、準強姦の際に火傷を負わされたとする女性2名、さらには薬物の影響で死亡させられた女性2名の計10名だが、警察や検察の調べでは、実際の被害者は209人にも上るとされた。
薬物の影響で死亡したのは、イギリス人女性のルーシー・ジェーン・ブラックマン(21歳・死亡当時)とオーストラリア人女性のカリタ・シモン・リジウェイ(21歳・同)。
ルーシーについては、事件の発覚を恐れた織原が死体を損壊、遺棄したとして準強姦致死罪に加えて死体損壊と同遺棄罪で起訴された。検察はより重い罪状である準強姦致死罪で無期懲役を求刑していた。
しかし、織原被告の弁護側は、準強姦を受けたとする訴えの一部に対して、「時間が長期に亘って経過しているため無効」だと主張し、準強姦致傷や致死、あるいは死体損壊・遺棄などについても、ほぼ全面対決の姿勢で裁判に挑んでいた。
法廷に現れた織原被告
濃いグレーのスーツにノーネクタイ、サンダル履きという姿で入廷した織原被告は、報道されている写真よりも太っているように見えた。落ち着かない様子で眼鏡を外し、青いタオル地のハンカチで顔を拭う。時折、天井を仰いで溜息をつき、緊張した面持ちで椅子に深く腰を下ろした。
10時を数分回った頃、立ち上がっていた織原被告に対し、栃木力裁判長が「これから判決を読み上げますから」と言って、分厚い判決文をめくった。
「主文。被告、織原城二を無期懲役に処する。未決勾留日数中1600日をその刑に算入する」