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 そして、ルーシーが来日する直前に贈ってきたカードを取り出し、「本当に愛している。会えないのは寂しいけど、私の心はいつもママのそばにいるよ」とその文面を読み上げ、「最も厳格な刑罰を希望します」と最後に訴えた。

 娘の日記が無断で公開され、その父親が1億円のお悔やみ金を受け取った事実を知ったときのショックは計り知れないものがある。

ルーシーさんの母・ジェーンさんは、織原被告からの「お悔やみ金」1億円の受領に断固反対した ©時事通信社

もう一人の被害者の母親も…

 もう一人の被害者で、オーストラリア人女性のカリタ・シモン・リジウェイの母親アネットも、「娘が死んでしまい、(私が)死んでもいいと思うようになり、回復するまでには10年かかりました」と苦しみを語った。

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 弁護側はこの日の法廷で、「織原被告の誠意の表れとして、すべての被害女性に対して一人当たり平均300万円の“見舞金”の支払いを行い、8人中7人とは示談が成立している。亡くなったルーシーの遺族に対しては、道義的責任に基づく慰謝料として、30万英ポンド(約6400万円)、カリタの遺族にも同じ理由で50万豪ドル(4200万円)を提示したが、双方の遺族は受け取りを拒否した」と陳述していた。

 民事と刑事事件の違いはあるにせよ、織原陣営のこのような被害者遺族への工作が、判決にどのような影響を与えたのか、その程度は定かではないが、傍聴席にいた有働元捜査一課長は、裁判所が下した判決に納得がいかず、裁判長による判決文の朗読が続く中、席を立った。

刑事の心に浮かんだ思い

 有働は、平成18年に警視庁を退官するまで、捜査一課畑を長きに亘って歩いてきた。ルーシー事件は、有働が捜査一課のナンバーツーである理事官として、実質的な捜査指揮をとった初めての事件だったこともあり、その思い入れは一層強く、捜査一課長になった後も裁判の行方を気にしていた。

 しかし、裁判所から指摘された通り、ルーシーに対する準強姦致死、死体損壊、遺棄容疑については直接証拠が乏しく、立件は困難を極めた。自信はあったが、一抹の不安もあった。だからこそ有働には、今回のこの厳しい判決が、21歳の若さで命を絶たれたルーシーからの強い叱責であるかのように感じられたのだ。