「とにかく忙しかった記憶しかなくて、必死でお皿を洗っていましたね(笑)」
――最初に着手したのは。
桐野 「コップ洗います」と言って洗いものを。あっという間に洗い物は積み上がっていきますから、とにかく洗わないと。で、落ち着いてからお会計と注文取りとか。代金をもらったら「Maiさん、お金はどこに入れておけばいいの?」なんて確認して、お釣りを渡したり。
――Maiさんいわく「一瞬で全体を把握して、あっという間に注文をさばいていった」そうですが、接客業や飲食業の経験は?
桐野 飲食店はありませんけど、玉川高島屋の地下にあるお酒売り場でアルバイトをしていました。接客という意味ではデパートで販売をやりましたけど、飲食はまったく経験がないです。なので、ノンアルコールのカクテルを作るのは私にはできないですね。そもそもMaiさんが開発したカクテルですし。そうやって、2時間ほどお手伝いしたのかな。とにかく忙しかった記憶しかなくて、必死でお皿を洗っていましたね(笑)。
――お手伝いしてから、インザシーに行かれましたか。
桐野 2回ぐらい行ったと思いますが、2021年にKMJ(カワサキモータースジャパン)の社長になってからは残念ながら一度も行けていないです。
――Maiさんから「お店をされているんですか?」と聞かれ、「ただのOLよ」と答えて去ったそうですけども。
桐野 OLって何やねん、っていうね(笑)。机で事務仕事をしている人間を表す単語として、OLを選んで言ってしまったという。後からあんまり適切じゃなかったなとは思いました。いまはOLという言葉自体が、なんなんだろうって感じですし。
翌年2019年7月28日に鈴鹿8時間耐久ロードレースが開催されて、テレビで放送されたんです。Maiさんは、そこに私が映っているのを見て「カワサキの人だったんだ」と気付かれ、さらにKMJの社長に就任したことでも驚いたようですね。
イベント当時はモーターサイクル&エンジンカンパニーのマーケティング部部長を務めていたんですけど、川崎重工の人間、メーカーの人間だと明かすと意外と喜ばれるんです。ただ、そうしたお話ばかりになってしまう。「こんど、どんな新車が出るんですか?」とか。それってたいへんうれしいことですけど、やっぱりあの日の主役はMaiさんとお客さんですからね。
写真=三宅史郎/文藝春秋