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「今日は迎えに行きますから。お腹の赤ちゃんと一緒にZ市に帰ってください」
ルリ子から小百合の家にいた持山に電話がかかってきたのは、間もなく昭和59年の正月を迎えようという年の瀬のことだった。ルリ子は持山を捜して彼の勤め先や友人宅を訪ね歩き、ようやくその居所を探し当てたのである。
小百合に自分は独身だと伝えていた持山は狼狽(ろうばい)し、その夜はZ駅まで迎えに来たルリ子とともに旅館に泊まった。その後、彼女と暮らすZ市の自宅に戻り、生まれてくる子供のために、小百合とは別れることを決意するに至った。
別れを告げるため、それから10日後にL市の小百合の家に向かった持山だが、別れ話について聞く耳を持たない彼女からベッドに誘われ、数日間をともに過ごしてしまう。
「気が狂いそう。お願い、帰ってきて」
怒り心頭に発したルリ子はL市を訪れ、持山を呼び出した。慌てて車で駆けつけた持山は、大きなお腹のルリ子を乗せて、自宅のあるZ市へと向かう。その車中、車を脇道に停めさせたルリ子は、これまで抑えていた感情を一気に爆発させた。
「私と子供はどうすればいいの? 気が狂いそう。お願い、帰ってきて」
追い詰められた持山は、泣き叫ぶルリ子の首に巻かれたマフラーに手をかけると、力任せに引っ張り……。
自制心のない愚かな男は、こうして取り返しのつかない犯行に及んだのであった。
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