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殺人に一切触れない作戦

 いかにして持山の身柄を拘束するか──。

 捜査チーム内で協議が繰り返されるなか、持山がその昔、先物取引仲介会社に勤めていた際に、飛び込み営業で親しくなった田口涼子という35歳の人妻から、委託証拠金として、数十万円を得たとの話が出てきた。

 調べを進めると、涼子は不倫関係にあった持山に対し、夫に内緒で48万円を手渡していたことが判明。しかし、持山による詐欺行為であるにもかかわらず、彼女は浮気がバレてしまうことを恐れ、被害調書の作成をしたがらない。

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「ご主人には知られないようにするから、なんとか協力してもらえないか」

 数日をかけた捜査員の粘り強い説得により、涼子はようやく承諾する。その結果、持山に対する詐欺容疑での逮捕状と捜索差押許可状が発付されたのだった。

 そこからのU県警の動きは早かった。すでに持山の行動確認を行っていたため、翌日の朝には転がり込んでいた小百合の自宅で、身柄を確保したのである。

 詐欺容疑の逮捕ではあるが、持山は妻であるルリ子の所在について、触れられることを恐れていた。しかし、U県警は持山に対して、涼子が被害者である詐欺事件の取り調べしか行わない。次第に彼の張りつめていた気持ちは緩んでいく。

 じつはこれはU県警の作戦であった。逮捕から2週間はルリ子について一切触れず、証拠を固めたうえで、一気に勝負をかけようと考えていたのである。

 持山が詐欺事件での取り調べを受けている間、U県警は小百合宅でルリ子の運転免許証や預金通帳などを発見、押収していた。さらにZ市内の銀行で彼がルリ子の預金を解約して47万円を引き出していたこと、同じくZ市内の中古車販売店で、彼女の愛車を45万円で売却していたことをつかんでいた。

「おそらくルリ子は生きていないだろう」

 捜査チームは最悪の状況を想定して、持山と対峙する準備を進めた。なかでもとくに詳細に取り決められたのは、取り調べの前に行う予定のポリグラフ検査についてだった。

 質問事項に関して内容が練られ、ルリ子の死亡日時や場所、殺害方法を含めた自殺・他殺の別については当然のこと、死体を遺棄した場所など、ルリ子が死亡していることを前提に話が進められた。

 そしてついに“決戦の日”がやってきたのである。

「あなたはルリ子さんを殺害しましたね?」