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自身の体も冷静に防御

 星野さんは殴る選手も、きっちり見定めていたように思います。ポジション的に、ピッチャーはメンタル面のダメージが制球力など試合でのパフォーマンスに悪影響する(キャッチャーも精神的なことを理由に送球で「イップス」になることもあるのですが……)と考えていたようで、その多くを対象から外していました。基本的に妻帯者を外していたことも有名ですよね。

 また、私を集中的にターゲットにしていたことにも少なからず、計算があったようです。

中村武志氏 ©文藝春秋

 投手陣が失点すると、私が星野さんに殴られることが続いたため、ある試合前、ピッチャーだけでミーティングを開いたそうです。音頭を取ったのは当時エースだった小松辰雄さん。話し合いの中では「俺たちがふがいないピッチングをしないことで(星野さんの鉄拳から)武志を守ってやろう」などとの言葉で、投手陣をまとめてくれたそうです。

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 小松さんの言葉通り、その後、投手陣は奮起してくれました。暫くは私が殴られる頻度が減ったことも確かだったのです。

 このミーティングの件は、すぐに星野さんの耳に入ったようでした。その様子を周囲に聞くと「よしよし」と自分のもくろみ通りだとばかりに、ほくそ笑んでいたとのことでした。

©️文藝春秋

 今回のお話の最後に、星野さんの信条である「頭は冷静に」の言葉は、ご自身を守ることにも向けられていたようでした。

 星野さんは試合中に怒りに任せてモノを蹴った際、何度か足の指の骨を折ったことがあったそうです。そこでシューズメーカーが気を利かせ、その保護のため、つま先をプラスチックで硬く加工したのです。星野さんは「勝手なことをして」とメーカー側に一応、文句は言いつつも、その靴を着用はしていたのです。

 しかし、これが蹴られた時に思わぬ威力を発揮したのです。靴の先端はカチカチになったので蹴られると、痛いのなんの……。私はメーカー担当者に「何とか軟らかくしてくれないか」と注文を付けたほどだったのです。

 私はこうした経験を繰り返すことで、いつしか「正しい殴られ方」というものを身に付けていきました。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。