今年7月、東京国税局が女子医大に立ち入り調査を実施
質問状を送付した翌日、女子医大は緊急理事会を開催して、ケネス社との契約について2年前に遡って、理事会の承認を得ていた。そして質問状に対して「理事会の承認を得ている」と回答したのである。偽装工作ともとれる対応について、落合弁護士に尋ねると──。
「報道されることを事前に察知して、2年前に契約を遡って理事会の承認を得た、という手続きそのものは、『瑕疵が治癒した』(*注)と見なすことができます。不自然に見えても、民法上は問題がないし、手続きは有効と解釈されるでしょう。ただし、契約自体が背任罪に問われるような違法性を帯びたものであった場合、遡って違法性がなくなるわけではありません」
(*注=手続きに欠陥があっても、後になって欠けていた要件が満たされた場合、手続きを適法として効力を維持すること)
今年7月、東京国税局の資料調査課が女子医大に立ち入り調査を実施した。その後も、数回にわたって立ち入り調査を行い、関係者への聞き取りを実施している。資料調査課の任務は追徴課税の徴収とされているが、落合弁護士によると、脱税事件に発展するケースもあるという。
「政界のドンといわれた金丸信・元自民党副総裁が、ゼネコン汚職で東京地検に逮捕された端緒は、国税局による脱税の解明でした。国税局は非常に検察庁と密接な関係がありますから、得られた情報を必要に応じて検察庁に提供していくことはあり得ます。今後、国税局が修正申告をさせるだけに留めるか、脱税として刑事責任を問うまで展開するか、どのレベルに着地するかですね」
「今の独裁的な体制を変えて、至誠会は女子医大の経営から退くべき」
教授として、女子医大で長年に渡って診療と教育に当たった女性医師は、岩本氏を告発した意味を次のように語った。
「私にとって女子医大は、実家のような愛着のある場所です。だから、ICUで亡くなった患者さんには、申し訳ない思いでいっぱいです。かかりつけが女子医大だったと聞いていますので、信頼を裏切ってしまい、お詫びするしかありません。同じ過ちを繰り返さないためにも、今の独裁的な体制を変えて、至誠会は女子医大の経営から退くべきだと思っています」
元教授の言葉を真摯に受け止め、女子医大の経営陣は患者を第一に考えるべき時だろう。
そして、診療現場を支えている中堅の医師からは、悲痛な叫びにも似た訴えが寄せられている。
「救急医療の崩壊が始まっています。救命救急科の医師が減少して、3次救急(緊急性の高い重篤な患者の対応)を1人で担当しているので、2次救急(手術や入院が必要な患者の対応)に手が回らないのです。小さな事故は毎日のように発生して、大きな事故も数件起こりました。
患者が急変した時に、救命救急科の先生に助けを求めても、『対応中で行けません』と断わられてしまうことが多い。ICUの医師もいないし、およそ大学病院とは思えない状況です。このままでは、働き続ける自信がありません」
経営陣に対して、この状況は繰り返し報告されているが、改善されていないという。厚生労働省は女子医大病院の診療実態について関心を寄せており、来月に関東甲信越厚生局が個別指導を行う方針だ。
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