専門医不在のICU(集中治療室)で、医療ミスにより患者が死亡した東京女子医科大学病院。岩本絹子理事長の専横的な大学運営によって、医師や看護師の大量退職が起き、医療の質や安全性が大きく低下するなど、危機的な状況に陥っている。
こうした中で、岩本理事長が巨額のカネを不正に流用した「背任罪」の疑いがあるとして、警視庁に告発されていたことが分かった。告発人となったのは、OG(卒業生)の女性医師たち。今後、事件として立件されるのか、元検事の落合洋司弁護士が解説する。
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告発事実として挙げられている3つの疑惑
「刑法247条(背任罪)に該当すると思料されるので、被告発人の厳重な処罰を求めるため告発する」
岩本絹子氏が深く関与したとみられる疑惑のカネに関して、徹底的な捜査を求める告発状が、今年9月に警視庁捜査二課に提出されたことが、関係者への取材で分かった。告発人として名を連ねるのは、いずれも女子医大出身の医師たち。現在も各自が診療している患者への影響を考えて、匿名を条件に告発した理由を述べた。
「かつて女子医大には、各診療科に素晴らしい医師が揃っていました。しかし、岩本氏が実権を握ってから、気に入らない医師は教授クラスでも追い出されてしまうようになり、すっかり凋落してしまったのです。患者も激減して、このままでは存続できないかもしれません」(女子医大出身・内科医)
「岩本氏が経営再建と称して、裏で私腹を肥やしていたことを文春報道で知りました。彼女に独裁的な権力を与えてしまったのは、至誠会(女子医大の同窓会組織)です。だから私たちがその責任をとるために行動する時だと決断しました」(別の女子医大出身・内科医)
告発事実として挙げられているのは、文春オンラインと週刊文春で筆者が指摘した、3つの不正なカネの疑惑だ。(#1,2,3を読む)まず、告発状から問題点を整理したい。
岩本氏は、2013年に女子医大の同窓会組織である「至誠会」の代表理事会長に就任、翌2014年からは女子医大の副理事長の座に就いた。2015年には、女子医大に、ヒト(人事)・モノ(購買・管財)・カネ(経理)・情報(情報システム)を集約した「経営統括部」を岩本氏が新設して、自ら担当理事の座に就いた。これによって、岩本氏は至誠会と女子医大の実権を掌握する。