展覧会前からSNSで女性作家に対して「会いに行く」と予告したり、「セックスしたい」「抱きたい」といったセクハラ発言を繰り返す男性客も……。現役ギャラリストの女性が明かした「ヤバい客」の共通点とは?
弁護士ドットコムニュース記者の猪谷千香氏の新刊『ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
◆◆◆
ギャラリーストーカーになる客とは
最初は普通の客だったはずが、いつの間にかギャラリーストーカーになってしまう。それは、どのような客なのだろうか。
銀座のギャラリーで働く20代女性、中井若菜さん(仮名)に尋ねてみた。ギャラリストという職業柄、数々のギャラリーストーカーを目撃してきた。中井さんによると、ストーカーになる客には、特徴があるのだという。
中井さんはコレクターにも階層があり、ピラミッドのようになっていると考えている。一番上の層が、たとえばアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏のような世界的な富豪。それから次に大企業やベンチャー企業の社長や役員。それから一番下の層が一般企業のサラリーマンなど、普通の人たちだ。
このいわゆる「普通の人」たちがギャラリーストーカーになってしまうケースを中井さんは多く見てきた。
彼らは若手作家の比較的安い作品を購入し、部屋の壁に飾ってSNSに写真をアップする。そうすると、作家やギャラリー、同じような美術ファンたちから「いいね!」を押されて、ちやほやしてもらえる。自分の居場所をそうしたところに見出し、ギャラリーに通う。その中で、若手作家と親しくなり、つきまといをするようになる人もいるのだという。
銀座にある中井さんの勤めるギャラリーは高級感のある店構えで、一般の客には入りづらそうに見える。それでも、例に漏れずギャラリーストーカーが出現する。
「女性作家をつかまえて長時間話す男性客はいます。また、高齢の男性でしたが、自分の作品と称して松ぼっくりにシールを貼った謎のものを、女性作家にしつこく手渡そうとしてきたことがありました。その方にはお声がけして、帰っていただきました」
ほかにも、中年の女性が、若手男性作家に「食べてね」といって、手作りの料理が入ったお弁当箱のようなタッパーを差し出してきたこともあった。中には、タケノコやれんこん、ニンジンなどの煮物が入っていた。
男性作家と女性は顔見知りではなく、違和感を感じた中井さんはタッパーを預かって、廃棄した。何が混入しているか、わからないからだ。
実際、作家の身に危険が及びそうになったこともある。
ある時、美人で知られる30代の女性作家が展覧会を開くことになった。普段は高嶺の花で手が届かない存在だが、ギャラリーに行けば在廊中の女性作家と確実に会える。女性作家のファンを自称する男性は、展覧会前からSNSで女性作家に対して「会いに行く」と予告したり、「セックスしたい」「抱きたい」といったセクハラ発言を繰り返していた。