二人の死については立件されなかったものの…
祥子さんの死で新たな“金づる”を求めた松永と緒方は、続いて北九州市内の住まいを仲介した広田由紀夫さん(死亡時34)をターゲットとして、金銭を搾り取った末、96年2月に殺害。さらに、由紀夫さんの高校時代の同級生だった男性の妻である原武裕子さん(仮名)を、夫と離婚させて“金づる”とした後に、北九州市小倉南区のアパートで「監禁致傷」と「詐欺・強盗」事件をはたらき、97年3月に逃走した彼女に重傷を負わせたのだった。
そして緒方が松永のもとから逃げ出し、大分県湯布院町に職を求めた通称「湯布院事件」では、緒方の親族を呼び出して、緒方が末松祥子さんと広田由紀夫さんを殺害したと説明。それを契機に彼らを支配下に置き、後の6人殺害(うち1人は傷害致死)に繋がったのである。なお、松永と緒方の裁判において、緒方が祥子さんを殺害したとの松永の話は、緒方家を従わせるための彼の嘘であったと認定されている。
今回の取材で、松永と緒方の事件発生時から取材を続けた元福岡県警担当記者は明かす。
「莉緒ちゃんと祥子さんの死については、裁判で争えるだけの証拠がなかったことから、立件はされませんでしたが、実際の状況については、両方に松永が絡んでいると考えられています。まず莉緒ちゃんの死については、警察も検察も松永が逆さにして両足を持ち、床に落としたと見立てている。というのも、監禁致傷などの被害に遭った原武裕子さんがアパートに監禁されていたときのことについて、彼女が連れていた当時3歳の次女に対して、松永が玄関先でそうやって脅したとの証言があるのです。
そのときは脅しだけで、実際に落とすことはありませんでしたが、同証言を得たことで、捜査関係者は莉緒ちゃんも同様のことをされたと確信しています。あと、祥子さんについては、彼女の自殺であることは間違いないのですが、松永が自殺に仕向けたと考えられており、松永の供述のなかで『自殺教唆は取れた』と聞いています。ただし、緒方の証言は取れていないとのことでした」
私の手元には、家出前の祥子さんがまだ幼い莉緒ちゃんを抱く写真がある。そこで笑顔を見せる彼女と、母親の腕にしがみつく娘は、私利私欲のために他人を踏み台にする男と関わってしまったばかりに、無辜の命を奪われたのだ。
もし莉緒ちゃんが生きていれば、現在31歳である。
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福岡県北九州市で7人が惨殺された“最凶事件”発覚から20年。事件を追い続けてきた筆者(ノンフィクションライター・小野一光氏)が「地獄の連鎖」を徹底的に描いた書籍『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)が刊行されます。
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