読者からの質問「脚光を浴びることのデメリットは？」
――では、読者からの質問をまとめて伺います。
●作品を読んでいると、「人は見かけによらない、多面性がある生き物だ」というメッセージ性を強く感じますが、作品を生み出す時に何か意識していることはありますか。（20代女性）
朝井 それは感じています。子どもの頃に読んだはやみねかおるさんの作品で物語感覚を育てられたところがあるんですが、ある本で、ずっと関西弁だった人が犯人で、最後だけ標準語で動機を話すシーンがあったんです。それがすごく怖かったんですよね。自分は「関西弁ってだけでこの人が関西の人だと思い込んでいたんだ」と感じて。書きながらいつも、人や物事は角度を少し変えてみたら奥行きが違って見えるものだ、と思っています。
●もしご自身がアイドルをプロデュースすることになったら、どのようなアイドルにされますか？（10代女性）
朝井 人間の欲望をきちんと満たしている人たちを集めたいです。ライブのMCで「ユカリが最近彼氏と別れちゃったんで、みんなでカラオケ行ってモーニング娘。の『シャボン玉』歌いましたよ！」とか普通に言ってほしい。
●「水曜日の南階段はきれい」（『最後の恋 MEN'S』新潮文庫 所収）が気に入っているのですが、この作品は『何者』と同じ登場人物が出てきますよね。そのことを知った時はとても感激しました！ 今後、こんな風に別の作品の登場人物を再登場させる予定はありますか？ また、特に思い入れのある登場人物はいますか？（20代女性）
朝井 わあ、気づいていただいてありがとうございます。『何者』はスピンオフを出す予定なので、『何者』の登場人物が出てくる話はあと2つもう書きました。もう2つ書いたら単行本になります。思い入れのある登場人物は、『武道館』の尾見谷杏佳ですね、やっぱり。『ASAYAN』のオーディションで落ちた女の子の名前を1文字かえているんですが、この本がその人の目に触れてほしいなと思っています。
●もうエッセイを出す予定はないんですか？ 待ち遠しすぎて頭がおかしくなりそうです。（40代女性）
朝井 なんていい人！ 僕もエッセイ出したいです！ 10周年になったらまた出すって勝手に決めています。
●『桐島、部活やめるってよ』が映画化されましたが、もし他の作品が実写化されるとしたら何がいいですか？（10代女性）
朝井 今はやっぱり『武道館』がいいです！
●小説が実写化されると「原作のイメージと違う」という意見が出ることも少なくないですが、メディアミックスをどのように思われますか？ 実写化されるなら登場人物はこの役者さんのイメージだな、と思われることはありますか？（20代女性）
朝井 僕はメディアミックスに賛成ですよ。そりゃイメージは変わるだろうけれど、それは表現方法が変わるのだから当然ですよね。文章と映像では長所と短所が全く違うものですし。ただ、もしも『武道館』が実写化されたら、ダンスの先生はコリオグラファーの夏まゆみ先生にやってほしいです。「毛穴からオーラ、目からビーム！」をやってほしい！
●小説を読んでいて、この人には勝てないな、負けたくないなと思う作家の方は誰ですか？（20代男性）
朝井 誰にも負けたくないです。目指すのは吉田修一さん。吉田さんは同じ男性作家で、ひとつのジャンルに特化しないで恋愛ものも青春ものも犯罪ものも書かれていますよね。ノンジャンルでなんでも書くし、世相も反映させるし、作品も大好きですし、自分にないものを持っている方だと思う。こんなにべらべら喋らないし、テレビでダンスとか絶対しないと思うし（笑）。僕はたぶんないものねだりなんです。
●4月からはじまったラジオ「オールナイトニッポン0」を楽しみにしています。作品やラジオをとおして、朝井さんは自分のことをしっかり理解されていると感じました。そんな朝井さんは、周りの方からどんな人だと言われているか知りたいです。（20代女性）
朝井 なんだろう。「目が死んでいる」とか「言葉に心がない」とか言われますが、それはきっと、周りの人が「小説家はこうあってほしい」と思っていることなんだろうなと感じています。小説家になっていなかったら、そんなこと言われないんじゃないかな？ と。小説家というフィルターに頼って、自分をミステリアスに見せています（笑）。
●朝井さんが考える、脚光を浴びることのメリットとデメリットはなんですか。（20代女性）
朝井 デメリットはなんだろう。直木賞の授賞式の二次会で作家の柚木麻子さんが「朝井くんは若いうちに脚光を浴びました。光を浴びるってことは、周りの影や闇も見えるということです」と言っていて、それはあるかもしれないと思いました。自分に向くよくない感情も感じますし。でも、お金がもらえます。お金がもらえると、本当にやりたい仕事に全力を注ぐことができます。それがいちばんの、わっかりやすいメリット。
●朝井さんに憧れて小説を書いてみたのですが、途中で文字を書くのがおっくうになって終わってしまいました。朝井さんはおっくうになることはありますか？（10代女性）
朝井 僕はプロットを埋めていくのが楽しいので、正反対かも。文字を書くのが億劫になるなら、漫画の原作者とか向いているかもしれませんね。
●生きていていちばん楽しいと思う瞬間はいつですか？（10代女性）
朝井 増刷の連絡がきた時かなー（笑）。
