突きつけられた選択肢は「中絶か離婚」

 そんなある日。今の状況の辛さを夫に訴えると、「だったら中絶するか、離婚してくれ」と、陽菜さんを突き放してきたのだ。

「その言葉を聞いたとたん、完全に取り乱してしまいました。理性が抑えきれず、そこらへんにあるものを旦那に向かって投げつけたら、警察を呼ばれてしまったんです。動揺して、母親にどうしようって電話をしたら、すぐに来てくれて。到着した警察に“どうしますか?”と聞かれると、母が“連れて帰る”と。それで母のもとに身を寄せることになり、そのまま旦那とは別居になりました」

 このとき、お腹の子はすでに24週を迎えていて、中絶可能な時期(※)は過ぎていた。

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※初期中絶手術は妊娠12週未満、中期中絶は妊娠22週未満まで可能とされている。

 妊娠中から、陽菜さんの気持ちは揺れ動いていた。もともと望んだうえでの妊娠だったから、絶対に自分で育てたい。でも精神疾患を抱える自分に育てられるだろうか。切羽詰まった陽菜さんは、妊娠中に一度、まだ夫と衝突する前に児童相談所に自ら電話したことがあった。すると保健師が訪問してきた。母に連れられ実家に戻ったあとも、保健師の訪問を受けた。

助産師から提案された「乳児院への入所」

※写真はイメージです ©iStock.com

「旦那と暮らしていたときは、自分で育てたい。でも旦那と別居してからは、育てる自信が持てない。母は自分のことで手一杯で頼ることができない。子どもへの気持ちが定まらずにいました。

 保健師さんから聞かれるのは“どうしたいですか?”ということだけで、“こんな選択肢がありますよ”、ということは教えてくれない。『コウノドリ』というドラマを観て特別養子縁組のことは知っていましたが、託す側の情報はなかなか調べても分からない。どうしたいですか? と言われても、情報がないから答えようがありませんでした。

 今は育てる環境ではないけど、いつかは自分で育てたい。でもそのためにはどうしたらいいか分からない。そんなとき、産む予定の病院の助産師さんから乳児院への入所を提案されたので、自分から、“乳児院にお願いします”と伝えました」

 乳児院とは、保護者の養育を受けられない乳幼児を養育する、地方自治体や社会福祉法人が運営する施設をいう。