[ロンドン]英王室を離脱したヘンリー公爵=王位継承順位5位=とメーガン夫人の米ストリーミング大手Netflixドキュメンタリーシリーズ『ハリー(ヘンリー公爵の愛称)&メーガン』やハリーの回想録『スペア(王位継承者に何かあった時の予備という意味)』が世界中で衝撃を広げている。在英国際ジャーナリストの木村正人氏が解説する。(全2回の1回目/後編に続く)

ヘンリー王子とメーガン妃 ©AFLO

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あまりにも赤裸々な告白

 ハリーはアフガニスタンでヘリコプターに乗務していた時、6つの作戦に参加した。「戦闘の熱と混乱の中に身を置いている時、25人を人間だとは思わなかった。彼らは盤上から取り除かれたチェスの駒であり、善良な人々を殺す前に排除された悪人だった」。こうしたあまりにも赤裸々な告白に複雑な波紋が広がった。

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 ハリーの回想録『スペア』は、エリザベス女王というバックボーンを失った英王室にとって致命傷になりかねないインパクトがある。英王室を離脱したハリーとメーガンが告白するストーリーは、チャールズ国王、ウィリアム皇太子両夫妻をはじめとする英王室サイドから見るのと、自由を求めて米国に逃れた2人との間には天と地ほどの開きがある。

2022年9月に亡くなったエリザベス2世

 ハリーにとってこの物語はカタルシス、すなわち自らのアイデンティティーを王室という桎梏から解き放つ「魂の救済」だ。しかし「鏡に映った自分自身であり、対極の存在であり、最愛の兄であり、宿敵」でもあるウィリアム皇太子への愛憎、そして『スペア』として生きることを運命づけられた時代錯誤の不条理に対する復讐なのかもしれない。

世界で唯一無二の自分探しの物語

 2018年5月、ハリーとメーガンの結婚式をロンドン郊外のウィンザー城で取材した筆者は当時、週刊文春に「白人支配の頂点にあった英王族と、アフリカ系の母親を持つ『奴隷の子孫』の結婚。奴隷解放と公民権運動を前面に出す結婚式に違和感がなかったと言えばウソになる。結婚が悲劇に終わる可能性もゼロではない。愛が永遠に続くことを願う」と寄稿した。

 王室目線、英国の潜在意識の中にある白人優越思想のプリズムを通したステレオタイプの批判は保守系の英国メディアの見出しを拾うだけでも洪水のように溢れている。しかし、この物語はハリーという純粋で、感性豊かな1人の男、父親であり夫である人間の目を通して読んだ方が断然、面白い。これは文字通り、世界で唯一無二の自分探しの旅だ。