「M-1グランプリ2021」優勝から約1年経ち、今や押しも押されぬ売れっ子芸人になった51歳の長谷川雅紀(左)と44歳の渡辺隆(右)。錦鯉の2人が栄光を掴むまでの道のりを『笑い神 M-1、その純情と狂気』を上梓したノンフィクションライターの中村計が迫った。

撮影 山元茂樹/文藝春秋

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なぜ渡辺はたった一人で笑い飯の漫才を見つめていたのか

――『笑い神 M-1、その純情と狂気』の取材で、昨年の笑い飯の単独ツアー初日のNGK公演も取材にうかがっていたんです。そのときのゲストのうちの一組が錦鯉で、芸人の中では、渡辺さんだけが袖のいちばん前でずっと笑い飯の漫才を眺めていて。その姿がとても印象的でした。

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渡辺 笑い飯さんのネタを、あの距離で見られることなんて、そうないじゃないですか。だから目に焼き付けておこうと。

撮影 山元茂樹/文藝春秋

――笑い飯が2002年から2010年まで、9年連続でM-1決勝に勝ち進んでいた頃、2人は前のコンビでM-1に参戦していましたが、ほとんど1、2回戦で敗退していました。当時の笑い飯や千鳥をはじめとする決勝常連メンバーは『笑い神 M-1、その純情と狂気』の中の主要な登場人物たちでもあるのですが、彼らの姿はどのように映っていたのでしょうか。

渡辺 それはもう、雲の上の存在で。まったく関わることのない人たちなんだろうなと思っていました。笑い飯さんは特に衝撃的。2003年の『奈良県立歴史民俗博物館』のネタとかは、ボケのセンスもあって、ばかばかしくて。シンプルなのに、漫才の要素がすべて盛り込まれていた。これ、漫才の完成版なんじゃないかなと思いました。

長谷川 僕は当時、札幌にいたんですけど、僕以上に周りの人たちが笑い飯に衝撃を受けていました。いちばん驚いたのは、知り合いのNHKの人が2人に憧れて突如会社を辞めちゃったんです。それでM-1に出場したりしていて。あの人、今、どうしているのかな。