「ただ、最初から雲行きはちょっと怪しかったんです。ピエリ守山が開業した2ヶ月後に、車で1時間ほど離れたところに『イオンモール草津』がオープンすることになって、有名どころの店舗が、そっちにスライドしてしまったんです」
開業してから1年は持ちこたえたものの、2年目から少しずつ店舗が抜け始めた。
「広いフロアのお店は人件費がかかるので、客足が鈍くなるとすぐに採算があわなくなって閉店してしまうんです。大きなお店が抜けると、その周辺がズドーンと暗くなるから、一気に廃墟感が加速していきました」
その後、空いたスペースに大型店舗が入るものの、2~3ヶ月で姿を消していくことを繰り返した。やがて、そのスペースにも店舗が入らなくなり、客足はさらに減っていった。
幸いにして、鈴木さんの店舗は県内では珍しいブランドだったこともあり、固定客に支えられて売上も安定していた。しかし、他のお店はショッピングモールの集客力に頼っていたので、売上を急激に落としていった。
「致命的だったのはスーパーがなくなったことでしたね。ついで買いや、ふらりと立ち寄る理由がなくなって、お客さんがほとんど来なくなりました」
「マネキンが身ぐるみはがされて、全裸になっていたことも…」一番困ったことは…
最後の10店舗になった時は、まさに廃墟同然だったという。
「アパレルのフロアには、僕のお店しかありませんでした。しかも店番は一人だったから、1日お客さんが来なければ、誰とも話さない日というのもありました」
苦労したのが昼のランチだ。カフェが1店舗だけ残っていたが、そこが鈴木さんのお店から遠く離れたところにあるため、温かい食事をとることができなかった。施設で防災訓練をやろうという話にもなったが、どの店舗もワンマン運営だったので、店を無人にして参加することができないということで中止になった。
「なかでも、一番困ったのは万引きでしたね」
普通のショッピングモールであれば、万引き犯に逃げられた際、「あの人を捕まえて!」と叫べば、他のお店から店員が飛び出してきて捕まえることができる。しかし、当時のピエリ守山にはそもそもお店がないので、万引き犯を見つけても逃げられっぱなしになる。自分自身もお店を空けて追いかけるわけにもいかない。
「少し離れたところにある自店のマネキンが身ぐるみはがされて、全裸になっていたこともありましたよ。廃墟になると、やっぱり治安も悪くなりますよね」