一方で、小手先のマーケティング戦略を繰り返しても、経営を立て直すことはできないという厳しい現実を突きつけられた一面もある。根本的に生まれ変わらなければ、手元でいくらこねくりまわしても、廃墟時代のピエリ守山同様、一度廃れた企業を蘇らせることは不可能に近い。
私自身、経営状態が厳しい会社のコンサルティングに入ると、この厳しい現実に向かい合うことがたびたびある。経営の改善策を求められて「いっそのこと会社と商品を総入れ替えしてみるのはどうでしょうか」と、喉元まで出かかったことが何度もある。
しかし、ピエリ守山は、その残酷な経営判断を下したことによって、見事に「明るい廃墟」から真っ当な商業施設に生まれ変わった。生き残るためには、「会社」と「商品」を入れ替えるしか道はなかったのである。
大切なのは「どこで働くか」ではなく…
鈴木さんは、今の復活したピエリ守山を見てどう思うのか。
「嫉妬心はまったくないですね。昔働いていた商業施設がなくなってしまうことのほうが寂しいですから。復活してもらって嬉しいぐらいです」
鈴木さんは廃墟モールで働いていた当時、空いた時間を使ってネットショップの運営を始めた。そこで新たな売上を作れていたことが、ピエリ守山からの早期撤退を免れた要因でもあった。現在はそこで磨いたスキルを生かして、IT関連の会社でEコマースの仕事に就いている。
「今の自分があるのは、ピエリ守山の経験があったからだと思っています。本当に貴重な体験をさせてもらったと今でも感謝しています」
「明るい廃墟」と言われたピエリ守山は、見事な復活を遂げていた。そこには半沢直樹ばりのドラマチックな人間ドラマがあったわけでもなく、画期的なマーケティングの戦略があったわけでもない。ドラスティックな経営改革で魅力ある施設に造り替えたリニューアル策は、“復活”よりも“別物”と表現した方が正しいかもしれない。
しかし、「明るい廃墟」で「明るい未来」を掴んだ鈴木さんの話を聞くと、人間の可能性も捨てたものではないと思えてしまう。大切なのは「どこで働くか」ではなく、「どう働くか」だ。そこが廃墟だろうがなんだろうが、自分の未来は商業施設よりも簡単に変えることができる。