戦後の日本映画史において、重要な役割を果たしたのが劇団俳優座だ。当時、各劇団は舞台だけでは満足な収益を挙げられないのもあり、所属俳優たちが積極的に映画出演をしていた。中でも目立っていたのが俳優座だった。
小沢栄太郎、東野英治郎、三島雅夫といった重鎮クラスが多くの作品で悪役として活躍する一方、主役級には仲代達矢、平幹二朗、加藤剛、山本圭、栗原小巻といった旬の役者たちが並び、さらに脇にも中谷一郎、井川比佐志、田中邦衛らがいた。
そして、彼らの映画やドラマ出演の差配をしていたのが、俳優座映画放送の佐藤正之だ。俳優たちに絶大な信頼を置かれていた佐藤がプロデューサーに入ることで、その作品には俳優座の面々を存分に配することができたのだ。それにより、映画会社からすれば小作品であっても隅々まで豪華な配役が可能になり、監督は目指す演出に応えてくれる実力の持ち主と組めて、俳優はチャンスを得られ、劇団にはお金が入る――と、誰もが得をする座組が出来上がっていたのだった。
今回取り上げる『五匹の紳士』も、そんな一本だ。俳優座が製作に参加して佐藤がプロデューサーになったことで実現した、大作ばりの充実したキャスティングとなった。現金三千万円を巡り五人の男たちが殺し合う話で、その五人を仲代、平、井川、田中、中谷という俳優座のオールスターともいえる面々が演じている。
交通事故で服役中の笈田(仲代)は、同じ房に収監中の千石(平)から出所間近に三千万円の山分けを持ちかけられる。条件は三人の男(井川、田中、中谷)を殺すこと。三人はかつて千石とギャングから現金を強奪しており、千石はその金を独り占めするために笈田をけしかけたのだ。だが、三人はギャングたちからも狙われていた。
井川の庶民的な人情味、田中の飄々とした情けなさ、中谷の隙のない逞しさ、平の不気味な冷たさ、そして仲代の圧倒的なカッコよさ。五人それぞれが「これぞ」という魅力を発揮しており、五社英雄監督が描きたいハードボイルドの世界を見事に体現していた。
ギャングの放った殺し屋を演じる天本英世も強烈だ。そのガイコツのような面相を動かすことなく、一人また一人と消していく様がとにかく恐ろしく、物語全体にスリリングなアクセントを加えている。そしてこの天本もまた、俳優座の所属である。
さらに冒頭の刑務所での乱闘シーンには夏八木勲、菅貫太郎といった当時の俳優座若手の姿もあるなど、画面の隅々に至るまで濃厚な俳優座の「顔」が埋め尽くしている。