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スナックのママが語った「当時の記憶」

 ビールを飲みながら待っていると、やがて50年配のママが店に現れた。前夜とは違い、カラオケの邪魔もない。いつ他の客が来るかわからないため、さっそく話を聞かせてもらうことにした。

 最初に尋ねたのは、男女と清美さんがいた部屋の間取りについてだ。

「あそこは6畳が2部屋と、あと10畳のキッチンがあるリビングやね。それに風呂とトイレが別々についとるんよ」

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「上の部屋の物音というのはよく聞こえるんですか?」

「夜中は水の音とか人の声は丸聞こえなんよ。でも、私は夜は店に出とるから、家におらんかったんやけどね」

松永・緒方が少女を軟禁していた、北九州市小倉北区片野にあるマンション ©文藝春秋

「肉が腐ったような臭いがするようになった」

 私がマスターからノコギリらしき音のことや異臭事件について聞いたことを伝えると、ママは当時の記憶が蘇ったのか、顔をしかめた。

「もう、ほんと臭かったんよ……。でね、たしか5、6年前やったんやけど、深夜に1週間くらい、ギーコ、ギーコっち感じでノコギリみたいなのを挽く音が響きよったんよね。それで、なんの音かねえっち言いよったら、しばらくしてから、3階から上の階で肉が腐ったような臭いがするようになったの。もう、鼻が曲がるような臭い。その臭いが2、3年くらい続いたかねえ。とくに夏場になるとひどくなったんよね」

「2、3年?」 

 思わず驚きの声を上げた。

「それで誰も問題にしなかったんですか?」

「いや、同じ階の××さんが警察に言ったんよ。でも警察はとりあってくれんかったみたいやね」

「警察に届けたんですか? だってその頃って少女はもう男女と一緒にいたわけでしょ。もしもそのときに警察が踏み込んでいたら、監禁がそこまで長期化しなかったかもしれないのに……」

「そうなんよねえ。けど、まわりはみんな知らんかったけねえ。あの子は本物のおばさんと暮らしとるっち思いよったもん。今考えるとかわいそうよね」