「男の出入りは深夜しか見たことない」
マスターは何度か昼間に少女とタクシーで出かける女を見たことはあるが、女はいつも顔を隠すように俯きがちだったという。
「男の出入りは深夜しか見たことないね。あ、そういえば女の子がまだ小5か小6くらいやった頃、赤帽の軽トラックが夜の10時から1時くらいまでの間にやってきて、おばさんと2人でダンボール箱を自分の部屋に何往復もして運び込むのを見たことがあるよ。だいたい5年くらい前やね。半年くらいの間に何回もそういうことがあって、荷物を運び込むだけやなくて、時には運び出すこともあったよ。そんときに男がおることもあったねえ」
「どんな大きさのダンボール箱でした?」
「けっこう大きいのとかあったよ。テレビが入っとるような。で、家宅捜索をした警察の人が言っとったんやけど、逮捕されたときはこの部屋から出る寸前やったみたいで、荷物は少なくて、残っとるもんはまとめてあったんやって。それから、うちのママがちょうど30×号室の真下に住んどるんやけど、あの部屋で物音を聞いたのは1カ月半くらい前が最後やっち言いよったねえ」
時期を逆算すると1月の後半あたりだ。後に判明したことだが、これは清美さんが最初に逃走していた時期にあたる。
マンションで起きていた「異音と異臭」
「まあ、もうちょっとしたらママが来るけ、話を聞いたらいいよ。夜中にノコギリの音やら聞いとるみたいやし、異臭事件の話とかもしてくれると思うけ」
「なんですか、それ?」
「せやけね、何年か前に一時期ずっと夜中にノコギリで物を切るような音が続きよったことがあるんよ。それで死体でも切り刻みよるんやないかって話が出とったんよね。それで、やっぱり同じくらいの時期やったんやけど、夏場になると3階から上がものすごい臭いになっとったんよ。あれはほんとにすごかった。なんか物が腐っとるような臭い。で、たまらんっち話になっとったんやけ」
清美さんは父親がすでに死んでいることを警察に話していたが、警察はそのことを一切明かしていなかった。そのため、少女への監禁・傷害事件と、このマンションで起きていた異音や異臭の正体がここで結びつくことはなかった。