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「二葉ごはん」はもともと寿司屋だったが、先代だった父が亡くなり息子たちが跡を継いだ際、Kに建物のリノベーションを依頼した。店舗の再生はさいわいうまくいき、9年後に隣の敷地にカフェ「二葉じかん」もオープンさせた。

 実際に店舗に行ってみると、単線の第三セクター鉄道「真岡鐵道(もおかてつどう)」沿いの田舎町らしからぬ垢抜けた雰囲気だった。特に飲食店のほうは、寿司屋時代の古い木板のお品書きを店内インテリアとしてわざと残す形で内装設計がなされている。

 生前のKが作った空間である。

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事故の犠牲になった建築士の男性が設計したカフェ「二葉じかん」の外観。茨城県筑西市(著者提供)

不法滞在・無免許・無車検・無保険

 ──いっぽう、運転者のジエウは事故現場から逃走した。 

 後日の裁判で明らかになったところでは、ジエウは現場を離れてから、同居している妹に電話し、やはり不法滞在者である妹が運転する別の車で迎えに来てもらって古河市外に脱出した。もちろん、こちらも無免許運転だ。

 対する茨城県警も、事故直後からすばやく動いた。まずは県内各地のコンビニの防犯カメラの映像がくまなく洗われ、事故発生から12日前の2020年12月7日につくばみらい市のコンビニに事故車両と同じナンバーのセレナが来ていたこと、降りてきた女が宅配便の発送をおこなっていたことが判明した。

 コンビニのレジに控えられていた宅配便の伝票の発送元住所が手がかりとなり、ジエウははやくも事故翌日の20日朝、自動車運転処罰法違反(過失致死)と道路交通法違反(救護義務違反)容疑で逮捕された。場所はつくばみらい市内である。

 ジエウ本人について、もうすこし詳しいプロフィールを紹介しておこう。 

 彼女は1990年6月2日、ベトナムのフート省生まれ。故郷は首都のハノイの北西30キロほどの場所にある農村地帯だ。離婚歴があるシングルマザーである。

基本的な交通ルールさえも理解しないまま自動車を運転していた可能性も

 2015年10月、当時2~3歳の子どもをフート省に残して、技能実習生として来日した。当初は岡山県の水産加工会社に勤務したものの、やがて逃亡。日本各地を転々とした末、数年後に茨城県つくばみらい市に移ったらしい。事故当時は妹と、当時25歳の友人というボドイの女性3人で共同生活を送っていた。事故を起こしたセレナは、もとより車検が切れた来歴定かならぬ車両であり、この3人の共有物として使っていた模様だ。

 ちなみに、ジエウには前科がある。2020年8月31日にさいたま地裁で、出入国管理法違反(不法滞在)と道交法違反(無免許運転)により有罪判決を受けているのだ。つまり事故のすこし前にも無免許運転で警察に逮捕されていたのである。

 ただ、このときは裁判後に入管に送られてから、仮放免処分を受けて帰宅した。そして2020年12月19日、小山方面に住んでいる同胞に冷蔵庫と洗濯機を運ぶために再び無免許でセレナを運転し、今回の事故を起こした。

 事故当時、側道から一時停止を無視して優先道路に飛び出し、横断をはかった行動から考える限り、彼女はごく基本的な交通ルールさえほとんど理解しないまま自動車を乗り回していた可能性が高い。 

 もちろん自賠責保険にも未加入だった。Kの突然の死は、不法滞在・無免許・無車検・無保険のベトナム人女性の運転によって引き起こされたのだった。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。